体外受精

2021.08.02

体外受精を行うスタッフの育成≪the Maribor consensus≫(Hum Reprod Open. 2021)

はじめに

医療現場でのperformance indicator(PI)は、スタッフのパフォーマンスを長期的に管理するために不可欠です。期待されるパフォーマンスと実際のクリニックのパフォーマンスとの間のギャップを管理することにより、組織が継続的に発展し続けるきっかけになるとしています。今回のthe Maribor consensusでは医師のトレーニングのPIまで設定しています。

ポイント

体外受精における卵巣刺激、採卵、胚移植の各手技について、トレーニング修了までの最低実施回数が示されました。卵巣刺激とトリガー100周期、採卵75周期、胚移植75周期を2年以内に達成することが推奨されています。

引用文献

ESHRE Clinic PI Working Group. Hum Reprod Open. 2021. DOI: 10.1093/hropen/hoab022

論文内容

卵巣刺激、採卵、胚移植は、不妊治療のトレーニングを十分に受けた医師が行うべきです。実は、トレーニング卒業を意味する最低限の回数はイギリスでもアメリカでも定めていません。今回、議論は分かれたようですがESHRE Clinic PI Working Groupは下記の回数を実施すること、これらの過程を2年以内に達成することを推奨しています。 

手技 トレーニング修了までの回数 
卵巣刺激とトリガー 100周期 
採卵 75周期 
胚移植 75周期 

トレーニング終了後も知識や技術維持のためにcompetenceの設定が必要であるとしています。ある程度熟練するためには一つの手順について200回行う必要があると推定されています。 

私見

医師のトレーニングは本当に難しいです。患者様に妊娠して欲しいという気持ちだけでは患者様に提供できる医療の質は保てません。
私たち施設の独立前母体である亀田総合病院はJCI(Joint Commission International)という世界の中で最も厳しい基準を持つ医療施設評価機構の認定施設であり、その中で医師の治療範囲についてはPrivilegeというシステムで管理されています。
生殖医療分野においてトレーニングが難しいのは、当日の超音波所見や採血結果、精液所見などを診て、外来その場で判断しなくてはいけない点が多いことです。
一般不妊での治療の流れの延長線上に体外受精治療がありますので、当院では一般不妊をしっかり管理できるようになってから体外受精治療を行う仕組みをとっており、卵巣刺激→採卵→胚移植という順番でトレーニングを行うようにしています。
私自身は亀田総合病院のARTセンターで研鑽を積みましたが、決して症例数が多い地域ではなかったため、一例一例を咀嚼し理解を深めていくというところに重点を置いてきました。現在では体外受精や手術の治療方針は、全症例を当院に所属する医師ですり合わせを行っていますし、ビジネスチャットやAPIなどの進化により医師一名一名がこなした症例数、治療成績も管理できる体制を構築していますのでクリニック内での医師間の治療方針も成績同様にばらつきは少ないと理解いただければ幸いです。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 胚移植(ET)

# 採卵

# 卵巣刺激

# KPI、カリキュレーター

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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