体外受精

2021.10.30

異常受精胚(3PN)の取扱い(論文紹介)

はじめに

採卵を実施し受精方法を決定した後、最初に判断するのが受精確認です。前核(PN)の数などを評価していきます。通常は2つ(2PN)ですが、異常受精の1つとして前核が3つ(3PN)見える場合があります。3PNの発生率は媒精では5-10%、ICSIでは2-6%とされています。3PNは複数精子が卵子に受精した場合、卵子の減数分裂に異常があった場合、受精後の第2極体の放出不全による場合があります。いくつかの研究では母体高齢化、重度男性不妊、過剰卵巣刺激によっても発生率が上昇するとされています。異常受精胚(abnormally fertilized oocyte (AFO胚))は通常移植しないことが一般的でしたが、海外での着床前検査の普及により、一定数、異常受精胚でも正倍数性であることも報告されています。3PN胚についての比較的新しい論文をご紹介させていただきます。

ポイント

3PN胚の約33%は正倍数性ですが、現段階では移植には慎重であるべきです。着床前検査の倍数性検査が異常受精胚に適応となることが今後の体外受精分野の重要なポイントとなる可能性があります。

引用文献

Kresna Mutia, et al. J Reprod Infertil. 2019. PMID: 31423415

論文内容

インド・ジャカルタで体外受精を行った女性12名30個の3PN由来の胚盤胞から着床前検査を実施し染色体異常の割合を検討しました。

結果

3PN由来の胚盤胞のうち、33.3%は正倍数性(染色体)を有していました。残りの66.7%が異常染色体でしたが、3倍体43.3%(69, XXYの検出であり、69,XXXは正倍数性としてカウントされている可能性あり)、モザイク13.4%、染色体異数体10%の順に異常率が認められました。

私見

FengとHerbert (2006)らも3PN胚は3倍体 61.8%、モザイク25.2%、正常染色体 12.65%と正常染色体の割合が低いことを指摘しており、今回も同様の結果となっています。現段階(日本国内での着床前診断の適応などを考慮すると)では3PN胚を戻すことに個人としては消極的な印象をもっています。しかし、2016年EnderらはICSI由来の3PN胚盤胞で健常児(39週3410g 女児:帝王切開)を分娩に至った報告をしています(Turk J Obstet Gynecol. 2016、DOI: 10.4274/tjod.45144)。また、2020年IVF学術集会で「3PN胚盤胞の着床前診断を行った結果、一定数の2倍体の正倍数性胚があること」を報告しています。着床前検査の倍数性検査が異常受精胚には適応となり実施できるようになることが今後の体外受精分野の重要なポイントなのかもしれません。
ATLAS OF HUMAN EMBRYOLOGY (https://atlas.eshre.eu/es/14546650461602050?fbclid=IwAR1JQzB6iyYD3WGCRAHyvKQtmUnLqholNmHmIxN4My0LhYEr3JR3v99IauA) では、3PN胚は、顕微授精・媒精どちらの受精方法に由来するかにより評価が異なります。顕微授精では、第2極体の排出が起きず2倍体になった卵子に精子が注入され、3倍体の胚になってしまったパターンです。全体の約1%前後(文献により異なります)といわれています。巨大卵子は、一般的に2倍体であるパターンが多いとされています。媒精により3PN胚になった場合は多精子受精であることが多く約5%前後(文献により異なります)に見られるとされています。卵子が複数の精子が侵入するのを抑制する防御機能不全により生じることが多いとされています。そのほかにも細胞分裂の失敗や二倍体精子の受精より起こることがあるとされています。第二極体の放出は通常に起こることが多いです。
卵子内にあった空胞と前核を誤判断し正常受精なのに3PNと判断してしまう可能性がゼロではないことです。以前は前核内の前核小体の有無を複数の培養士で判断し区別していましたが、最近ではタイムラプスが主流になっており、以前に比べ誤診はなくなってきていると思います。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 顕微授精(ICSI)

# 受精

# 前核(0PN、1PN、2PN、3PN)

# 着床前遺伝学的検査(PGT)

# 媒精(IVF)

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

この記事をシェアする

あわせて読みたい記事

内膜症性卵巣嚢胞患者に対する手術前受精胚凍結保存(Reprod Med Biol. 2025)

2025.10.13

ICSI周期における未熟卵割合と胚発生・出生率の関連(Hum Reprod. 2025)

2025.09.30

1PN由来胚の臨床的価値の再評価(J Assist Reprod Genet. 2025)

2025.09.15

男性不妊がない患者におけるIVF vs ICSI:無作為化試験(Nat Med. 2025)

2025.06.06

体外受精の人気記事

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

凍結胚移植当日の血清E2値と流産率(Hum Reprod. 2025)

自然周期採卵における採卵時適正卵胞サイズ(Frontiers in Endocrinology. 2022)

年齢別:正倍数性胚盤胞3個以上を得るために必要な成熟凍結卵子数(Fertil Steril. 2025)

高年齢の不妊治療で注目されるPGT-A(2025年日本の細則改訂について)

PGT-Aによる体外受精での出産までの期間への影響(Fertil Steril. 2025)

今月の人気記事

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

2025.09.03

レトロゾール周期人工授精における排卵誘発時至適卵胞サイズ(Fertil Steril. 2025)

2025.09.03

凍結胚移植当日の血清E2値と流産率(Hum Reprod. 2025)

2025.06.09

自然周期採卵における採卵時適正卵胞サイズ(Frontiers in Endocrinology. 2022)

2025.03.25

年齢別:正倍数性胚盤胞3個以上を得るために必要な成熟凍結卵子数(Fertil Steril. 2025)

2025.10.06

2024.03.14

禁欲期間が長いと妊活にはよくないです

2024.03.14