体外受精

2021.12.10

正常卵巣予備能女性の卵巣刺激にレトロゾールを併用すると?(Hum Reprod. 2021)

はじめに

FSHアンタゴニスト法にレトロゾール併用することでトリガー時のプロゲステロン濃度が1.5ng/ml以上の割合が増加するかを検討した報告をご紹介いたします。この基準を設定しているのは、新鮮胚移植の成績がプロゲステロン濃度の上昇と関連することがわかっているためです。こちらに由来したstudy questionとなっています。 

ポイント

正常卵巣予備能女性へのFSHアンタゴニスト法におけるレトロゾール併用は、トリガー時のプロゲステロン早期上昇を抑制する効果は限定的でしたが、FSH使用量を減少させることが示されました。新鮮胚移植の成績は両群で同等でした。 

引用文献

Nathalie Søderhamn Bülow, et al. Hum Reprod. 2021. DOI: 10.1093/humrep/deab249 

論文内容

2016年8月から2018年11月まで、デンマークの大学病院の4つの不妊治療クリニックで実施された無作為化二重盲検プラセボ対照試験です。 
正常な卵巣予備能(PCOSやpoor responder患者を除いています)が期待される女性129名に対してFSH 150単位でのFSHアンタゴニスト法とともにレトロゾール5mg/日(n = 67)またはプラセボ(n = 62)で検討しました。プロゲステロン、エストラジオール、FSH、LH、アンドロゲンを、刺激開始から黄体期中期まで分析しました。またレトロゾールが生殖成績、FSH総消費量、有害事象に及ぼす影響を評価しました。 

結果

トリガー時のプロゲステロン>1.5ng/mlの女性の割合は、レトロゾールでは6% vs. 0%(OR 0.0、95%CI[0.0〜1.6]、P = 0.12)であったのに対し、黄体中期プロゲステロン>30ng/mlの女性の割合はレトロゾール群で有意に増加しました(59%vs.31%(OR 3.3、95%CI [1.4〜7.1]、P=0.005))。レトロゾールはプラセボ群と比較して、排卵誘発日のエストラジオールレベルを68%(95%CI [60%〜75%]、P<0.0001)減少させました。その他のホルモンプロファイルをAUCで検討したところ、LH増加率はレトロゾール群 vs. プラセボ群で、卵胞期で38%(95%CI[21%〜58%]、P<0.0001)、黄体期で34%(95%CI[11%〜61%]、P = 0.006)でした。レトロゾール群とプラセボ群を比較した場合、テストステロンは、卵胞期および黄体期にそれぞれ79%(95%CI [55%〜105%]、P < 0.0001)および49%(95%CI [30%〜72%]、P < 0.0001)増加しました。レトロゾール群とプラセボ群の比較では、アンドロステンジオンの増加は、卵胞期と黄体期でそれぞれ85%(95%CI [59%〜114%]、P < 0.0001)と69%(95%CI [48%〜94%]、P < 0.0001)でありDHEAは変化しませんでした。継続妊娠率は、レトロゾール群とプラセボ群で同等でした(31% vs.39%(リスク差8%、95%CI[25%〜11%]、P = 0.55))。重篤な副作用は両群ともに認めませんでした。レトロゾール群では、外因性FSH刺激の総期間が1日短くなり、FSHの総消費量が有意に減少しました(平均差100IU、95%CI[192〜21単位]、P = 0.03)。 

私見

プロゲステロン値が1.5ng/ml以上の未熟な女性の割合は、レトロゾールの併用により有意な影響を受けませんでした。この論文は医療者にとっては、とても大事な論文なのですが、患者様にとってはあまり面白みがない論文ですよね。PCOSなどの患者様でなければレトロゾールを併用したHMGアンタゴニスト法は、使用しない場合と同様に新鮮胚移植をすることが可能であることがわかります。 

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# GnRHアンタゴニスト

# クロミフェン、AIなど

# 卵巣刺激

# 新鮮胚移植

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

この記事をシェアする

あわせて読みたい記事

PP法とGnRHアンタゴニスト法比較:システマティックレビューとメタアナリシス(J Assist Reprod Genet. 2025)

2025.09.19

DYD-PPOS vs. MPA-PPOS vs. GnRHアンタゴニスト(J Assist Reprod Genet. 2025) 

2025.07.08

卵巣反応性不良患者における自然周期と調節卵巣刺激の累積生児獲得率(J Assist Reprod Genet. 2025)

2025.07.03

フォリトロピンデルタを用いたPPOS法 vs. アンタゴニスト法(Cureus 2025)

2025.06.05

ロング法(レコベル®皮下注ペン)にrhCGを追加するとよい?( Hum Reprod. 2022)

2025.05.28

体外受精の人気記事

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

年齢別:正倍数性胚盤胞3個以上を得るために必要な成熟凍結卵子数(Fertil Steril. 2025)

自然周期採卵における採卵時適正卵胞サイズ(Frontiers in Endocrinology. 2022)

凍結胚移植当日の血清E2値と流産率(Hum Reprod. 2025)

単一胚移植・人工授精後の妊娠判定時のHCGの特徴(Hum Reprod. 2024)

PGT-Aによる体外受精での出産までの期間への影響(Fertil Steril. 2025)

今月の人気記事

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

2025.09.03

レトロゾール周期人工授精における排卵誘発時至適卵胞サイズ(Fertil Steril. 2025)

2025.09.03

年齢別:正倍数性胚盤胞3個以上を得るために必要な成熟凍結卵子数(Fertil Steril. 2025)

2025.10.06

自然周期採卵における採卵時適正卵胞サイズ(Frontiers in Endocrinology. 2022)

2025.03.25

2025.10.29

妊活における 痩せ薬(GLP-1受容体作動薬)(Fertil Steril. 2024)

2025.10.29

凍結胚移植当日の血清E2値と流産率(Hum Reprod. 2025)

2025.06.09