体外受精

2022.02.19

タイムラプスのAI scoringどこまで参考にする?( PLoS One. 2022.)

はじめに

現在、国内の不妊施設には複数メーカーの胚タイムラプスインキュベーターが導入されています。それぞれのメーカーがAI scoringにしのぎを削って開発しており、現在のところ、複数の段階を経てアップデートしているのがVitrolifeのEmbryoscopeのスコアリングシステム(https://www.vitrolife.com/ja-jp/products/time-lapse-systems/)です。今まで胚発生などの時間をアノテーションしスコアリングしたKIDScoreがメインでしたが、今回AI学習を主軸としたiDA scoreが登場し、当院でも適応を満たす患者様に提供を始めています。タイムラプスが先進医療となる時代、少しでも患者様に追加で得られる情報が増えることが好ましいと考えています。では、iDA scoreにどの程度信頼性があるのでしょうか。

ポイント

世界18施設の115,832個の胚データからAI学習したiDA scoreは、着床胚選別のAUC 0.67を示し、従来法と同等以上の性能を持つことが示されました。ただし、年齢や移植方法により予測精度が異なるため、従来評価法の補足データとして用いるのが推奨されます。

引用文献

Jørgen Berntsen, et al. PLoS One. 2022. DOI: 10.1371/journal.pone.0262661

論文内容

タイムラプス画像シーケンスのみを用いたAI学習の胚選択モデルが、異なる患者年齢や臨床条件においてどのように機能するか、従来の形態運動パラメータとどのように相関するかを調査しました。
世界各国の18のIVFセンター(2011年から2019年の間のレトロスペクティブデータ)から集めた115,832個の胚からなる大規模なデータセットに基づいて学習・評価され、そのうち14,644個(心拍陽性4,337個と心拍陰性10,307個)の胚が着床した胚として解析されました。トレーニングデータセット(85%)とテストデータセット(15%)に分けて解析を行っています。
平均女性年齢は35.6歳(18歳-52歳)、授精後24時間以前にエンブリオスコープのインキュベーターに挿入し108時間以降に取り出されたすべての胚を対象としました。

結果

テストセットにおいて、AIモデルは、AUC 0.67の着床胚と、AUC 0.95のすべての胚を選別しました。各クリニックのテストでは、着床胚のAUCが0.60〜0.75となり有効性が示されました。女性年齢、受精方法、培養時間、移植プロトコルの異なるサブグループでは、AUCは0.63〜0.69の範囲になりました。さらに、モデルによる予測は、胚盤胞のグレードとは正の相関があり、direct cleavagesとは負の相関がありました。iDAScore v1.0モデルは、アノテーションを用いた最新の胚選択モデルと少なくとも同等の性能を持つことが示されました。
さらには、胚のスコアリングを完全に自動化することで、手作業による評価の回数を減らし、培養士別などのばらつきによるバイアスを減らすことが期待できます。
direct cleavages:t3-TPNf<5hのときに直接1細胞→3細胞分裂(DC1-3)、t5-t3<5hのときに直接2細胞→5細胞分裂(DC2-5)と定義しています。

私見

AIスコアはどこが評価されているかブラックボックスです。例えば一時的に画面から胚が外れていなかったか、顆粒膜細胞などの異物が混在していないか、ピントが合っているかなどです。よって、現段階では従来の評価法の補足データとして用いるべきだと考えています。
AI scoreが何を反映しているかはわかりませんが下記のような項目を反映していました。
点数は1.0-9.9までのスコアリングです。 7点を切るものとして胚盤胞に到達したとしてもdirect cleavagesを行ったもの、胚盤胞到達時間が110時間以上のもの、ICMとTEのGardner分類がCのものとなっています。
サブグループ解析結果は下記のとおり。

患者の年齢(30歳未満、30〜34歳、35〜39歳、39歳以上)
着床胚のAUCは0.63〜0.69の間で変化し、30〜34歳の年齢層で最も低いAUCとなりました。つまり若い層ではiDA scoreが低くても着床するということです。

授精方法
顕微授精と体外受精のAUCは、それぞれ0.69と0.67で差がありませんでした。どちらの胚の点数が高く出るという傾向はなさそうです。

新鮮胚移植と凍結融解胚移植
凍結融解胚移植のAUCは0.65で、新鮮移植のAUCが0.69に比べて低くなっています。これは凍結融解胚移植では予測精度が低くなることを意味しています。凍結・融解技術などの交絡因子が影響を与えているのだと考えます。ただし、18のクリニックの中で、日本のように凍結融解胚移植メインのクリニックはAUC 0.72と高い状態でしたので、凍結技術が安定するとiDA scoreは参考になることがわかります。凍結技術はやはり下手な施設で行うとダメージが蓄積するのでしょうか。

発育速度
胚盤胞になる発育スピードは発生速度が遅くなるほどスコアが低下しました。

Gardner分類の細胞数
ICMとTEのグレードが低いほどスコアが低下しました。

direct cleavages
direct cleavagesはスコアが低下することがわかっています。直接1細胞→3細胞分裂(DC1-3)は直接2細胞→5細胞分裂(DC2-5)よりスコアが低くなります。ただし、direct cleavagesがあっても胚盤胞に到達した群ではスコアに与える影響が低くなっています。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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