はじめに
流産原因の半数は胚の染色体異数性とされています。流産絨毛で行われるGバンド法(通常350-450バンド)では10Mbを超える欠失または重複を確実に検出することができます。つまり、10Mbを超える欠失または重複がない場合を流産絨毛検体で「細胞遺伝学的に正常」と表現します。それより小さい異常の場合はGバンドでは検出できませんが、マイクロアレイ法や次世代シークエンス法を用いると検出できるようになっています。
どれほど病的意義をもつかは、まだまだ不明な点が多いですが、10Mb以下でもタンパク質をコードする要素や機能的に重要な既知の要素が含まれる可能性があり、病的意義をもつ可能性が考えられています。今回、正倍数性染色体の流産絨毛検体における遺伝子コピー数変異(CNV:copy number variant)を調べた報告をご紹介いたします。
ポイント
平均年齢31歳女性の流産検体を調べると、正倍数性胚の15.24%に病的遺伝子コピー数変異(pathogenic CNV)を認め、CNVの発生は母体年齢、流産時期、流産回数とは関係がなく、3Mb以上のCNVは高い確率で、1〜2MbのCNVの約40%で関連がありました。
引用文献
Chongjuan Gu, et al. J Assist Reprod Genet. 2022. DOI: 10.1007/s10815-022-02527-8
論文内容
単胎妊娠後に流産にいたった流産絨毛検体の染色体マイクロアレイ解析にて正倍数性と判断されたもののうち、CNV検出した症例を対象としたレトロスペクティブ・コホート研究です。患者背景を、CNVの有無で比較検討しました。またCNVについてはpathogenic CNVと意義不明の変異(variant of unknown significance:VUS)を調査しました。
結果
2016年5月から2021年4月までの合計610検体の正倍数性の流産絨毛検体のうち、176検体がCNVを伴う異常、434検体がCNVを伴わない異常でした。母体年齢、流産時期、流産回数とは関係がありませんでした。93検体で104のpathogenic CNVが同定され、10検体で8p23.3の欠失が認められました。3Mb以上のCNVはすべて、1〜2MbのCNVは39.5%がpathogenic CNVが同定されました。1Mb未満のCNVは3検体のみでした。UPDは12検体で認めました。
私見
以前よりCNVの流産との関連は報告されています。ただ、検査機器・方法やリファレンスデータなどにより検出頻度が異なり、過去の報告では流産検体あたりの頻度が0-11%でした(Wang Y, et al. Ultrasound Obstet Gynecol. 2020)。
今回の報告がやや高いのは検出力が上がったからかもしれません。流産におけるUPD頻度は2.8%と報告した以前の研究(Fritz B, et al. Eur J Hum Genet. 2001)と一致しているのである程度信頼度が高いのかなと思っています。まだまだ着床前診断を含めて、今から進歩する分野です。日々アップデートしていきたいと思います。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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