体外受精

2022.07.11

体外受精1周期と人工授精3周期どっちが有効?(Fertil Steril. 2022.)

はじめに

米国生殖医学会が38歳以上の女性に体外受精を推奨しているのはFORT-T試験(n = 154)に基づいています。この試験では38-42歳の女性において、体外受精2周期は、卵巣刺激を行った人工授精2周期よりも高い出生率でした(体外受精 vs. クロミッドを用いた人工授精 vs. ゴナドトロピンを用いた人工授精: 31.4% vs. 13.5% vs. 15.7%)(Goldman MB, et al. Fertil Steril 2014)
体外受精1周期と人工授精3周期の有効性と安全性を比較検討した報告をご紹介いたします。

ポイント

体外受精1周期と人工授精3周期の累積出生率は女性年齢によって異なります。40歳以上では体外受精が有利ですが、40歳未満では同等の結果となります。ただし人工授精は卵巣刺激を用いた方法での比較です。

引用文献

Yu-Han Chiu, et al. Fertil Steril. 2022. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2022.02.003.

論文内容

医療費請求データベース(2011年~2015年)を用いたターゲットトライアルエミュレーションにて、不妊症と診断され過去12ヶ月以内に人工授精または体外受精既往がない18~45歳の女性29,021名を対象としました。
すぐに体外受精1周期を行い、その後4ヶ月以内に体外受精/人工授精を行わない群、またはすぐに人工授精1周期行い、その後4ヶ月以内に妊娠しない場合、さらに人工授精を2周期連続して行った群において、出生率、多胎率、先天性奇形率、早産率、SGA児率、LGA児率、NICU入室率、妊娠糖尿病率、子癇前症率、妊娠高血圧症候群率を検討しました。

結果

出生確率は体外受精27.3%、人工授精26.3%でした。プロトコールごとのリスク差(95%CI)は、体外受精が人工授精と比較して、出生率1.0%(-0.1%、2.2%)、多胎率4.3%(3.7%、4.9%)、早産率3.4%(2.8%、4.0%)、NICU入室率1.5%(0.9%、2.1%)、妊娠糖尿病率0.6%(0.2、1.0%)となり、それ以外はプロトコールのリスク差を認めませんでした。40歳以上の女性では、体外受精(14.4%)が人工授精(7.4%)よりも出生率が高くなりました。

18-34歳35-37歳
治療法体外受精人工授精体外受精人工授精
1回34.1%14.4%25.9%12%
2回まで行わず26.6%行わず21.7%
3回まで行わず32.1%行わず25.4%

38-40歳41-45歳
治療法体外受精人工授精体外受精人工授精
1回18.2%9.2%14.4%3.7%
2回まで行わず18.1%行わず6.4%
3回まで行わず22%行わず7.4%

女性年齢で層別化した体外受精1周期vs. 人工授精3周期の推定累積出生率

私見

この論文では40歳未満では、体外受精1周期と人工授精3周期の有効性と安全性は同等としていますが、人工授精は卵巣刺激を用いた方法であり臨床妊娠率が周期あたり13-15%となっています。これは複数卵胞を発育させて行った人工授精と考えられますので、国内で行っているような単一発育卵胞を目標とした人工授精ではもっと体外受精有利の結果になるような気がします。
また興味深いのが、体外受精不成功の後、人工授精に移行した場合、体外受精1回不成功でも2回不成功でも人工授精の妊娠率が8%前後担保されることです。
これをみると、体外受精で結果がでない場合は人工授精をトライしてみる価値があるのだと思います。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 人工授精

# 年齢素因

# 総説、RCT、メタアナリシス

# 費用対効果

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

この記事をシェアする

あわせて読みたい記事

微細な遠位卵管異常患者における体外受精での累積出生率(Reprod Med Biol. 2025)

2025.10.14

卵巣内自家PRP注入のPOR・POI患者への影響:後ろ向き研究 (Fertil Steril. 2025)

2025.10.07

年齢別:正倍数性胚盤胞3個以上を得るために必要な成熟凍結卵子数(Fertil Steril. 2025)

2025.10.06

PGT-Aによる体外受精での出産までの期間への影響(Fertil Steril. 2025)

2025.09.09

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

体外受精の人気記事

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

自然周期採卵における採卵時適正卵胞サイズ(Frontiers in Endocrinology. 2022)

年齢別:正倍数性胚盤胞3個以上を得るために必要な成熟凍結卵子数(Fertil Steril. 2025)

修正排卵周期凍結融解胚移植におけるトリガー時卵胞径と生殖医療成績(Hum Reprod Open. 2025)

凍結胚移植当日の血清E2値と流産率(Hum Reprod. 2025)

単一胚移植・人工授精後の妊娠判定時のHCGの特徴(Hum Reprod. 2024)

今月の人気記事

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

2025.09.03

レトロゾール周期人工授精における排卵誘発時至適卵胞サイズ(Fertil Steril. 2025)

2025.09.03

2025.10.29

妊活における 痩せ薬(GLP-1受容体作動薬)(Fertil Steril. 2024)

2025.10.29

自然周期採卵における採卵時適正卵胞サイズ(Frontiers in Endocrinology. 2022)

2025.03.25

年齢別:正倍数性胚盤胞3個以上を得るために必要な成熟凍結卵子数(Fertil Steril. 2025)

2025.10.06

修正排卵周期凍結融解胚移植におけるトリガー時卵胞径と生殖医療成績(Hum Reprod Open. 2025)

2025.08.20