はじめに
卵子の量と質との関連性は十分に確立されていません。
E.G. JaswaらとM.G. Katz-Jaffeらは卵巣予備能が低下すると異数性割合が増えるという報告をしているのに対し、S.J. Morinらは卵巣予備能と異数性割合に関連はないと報告しています。
E.G. Jaswa, et al. Fertil Steril, 115 (2021), pp. 966-973
M.G. Katz-Jaffe, et al. Obstet Gynecol, 121 (2013), pp. 71-77
S.J. Morin, G., et al. Hum Reprod, 33 (2018), pp. 1489-1498
今回、傾向スコアマッチングを行い、卵巣予備能低下(DOR)群でも卵巣刺激反応不良(POR)群でも異数性率は変わらないという報告が出てきましたのでご紹介させていただきます。
ポイント
卵巣予備能低下(DOR)または卵巣刺激反応不良(POR)と診断された若い女性は、患者背景を合わせて解析を行ったところ、胚盤胞の異数性率や胚移植あたりの出生率が同等でした。ただし、周期あたりで移植できる正倍数性胚がない割合はDORまたはPOR患者では増えるため、妊娠予後に影響を与えている因子は卵子の質ではなく数であることがわかりました。
引用文献
Yuval Fouks, et al. Fertil Steril. 2022 Jul 9;S0015-0282(22)00386-7. doi: 10.1016/j.fertnstert.2022.06.008.
論文内容
生殖医療単施設にて2014年12月から2020年6月までの凍結胚移植周期を検討したレトロスペクティブ・コホート研究です。患者背景や不妊因子などをDOR群(卵巣予備能低下:AMH 1.1ng/mL未満)およびPOR群(卵巣反応不良:回収卵子5個未満)を2:1および4:1で傾向スコアマッチングを行い異数性の割合を検証しました。評価項目は異数性率(異数性/周期あたりの生検した胚盤胞)、移植できる正倍数性胚がない割合としました。
結果
初回体外受精周期の40歳未満女性2,219名からDOR群383名、POR群143名をそれぞれ選び1:2、1:4で傾向スコアマッチングしました。
PSM適用前のDOR群と非DOR群の周期別異数性率は、それぞれ42.2% vs. 39.1%で差を認めず、PSM適用後も同様でした(42.2% vs. 41.7%; P=.87; RR=1.06; 95%CI、0.95-1.06)。DOR群ではゴナドトロピンの平均投与量が有意に多くなっていました。PSM後の平均卵巣予備能マーカーは、それぞれAMH 0.91 ng/mL ± 0.76 vs. 3.6 ng/mL ± 3.0 (P<.001; 95% CI, 2.39-3.00)、AFC 6.4 ± 6.4 vs. 10.1 ± 6.6 (P<.001; 95% CI, 2.88-4.43)でした。
POR群と非POR群の比較の周期別異数性率は、それぞれ差がありませんでした(41.1% vs. 44.0%; P=.75、RR=1.02; 95%CI、0.91-1.14)。
正倍数性胚をひとつも移植できない周期割合は、DOR群とPOR群の間で対照群に対して多くなりました(19.3% vs. 10.3%; P<.001)、(26.5% vs. 13.2%; P<.001)。しかし、生検できた胚がひとつのみである割合はDOR群と非DOR群で31%, n = 120, vs. 11%, n = 89でしたので、この差につながっているのかもしれません。出生率はDOR群と非DOR群(60.6% vs. 56.1%)、POR群と非POR群(64.1% vs. 54.1%)で差を認めませんでした。
私見
DORまたはPORは年齢など成績と強く影響する交絡因子が複数ありますし、DOR・PORの定義も様々で一定の基準で比較できていないのが実情です。今までの結果を加味すると36-38歳未満であれば卵巣予備能が低下しても異数性割合は変化しないというのが妥当な気がします。高齢と若齢の卵巣予備能の低下のメカニズムの違いが、これらの結論に影響しているのかもしれませんね。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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