はじめに
レトロゾール排卵周期凍結胚移植が、胎児の先天奇形率の増加をきたさないことは複数の論文で報告されてきていますが、他の周産期結果に影響を及ぼさないのでしょうか。早産との関係を示した報告をご紹介いたします。 ご紹介する報告はレトロゾール5mg/日 5日間内服し、排卵後2日目よりプロゲステロン腟剤200mg/日のみで黄体補充した生殖医療成績を比較検討しています。
ポイント
レトロゾール排卵周期群と自然周期排卵群の妊娠率、出生率は同等でしたが、レトロゾール排卵周期群は在胎週数が6日短く、早産率・低出生体重児率が増加しました。中央値はともに満期産であるため病的意義が乏しいですが、今後注視していく必要がありそうです。
引用文献
Wendy Y Zhang, et al. J Assist Reprod Genet. 2023 Feb 28. doi: 10.1007/s10815-023-02759-2.
論文内容
2016年から2020年に単一正倍数性胚盤胞移植をレトロゾール排卵周期(n = 161)もしくは自然周期排卵(n = 575)で行った場合の妊娠・周産期結果を比較検討したレトロスペクティブコホートです。アウトカムはASDが大きいほど差が大きいことを意味する絶対標準化差(ASD)を用いて比較しました。多変量回帰モデルでは、母体年齢、BMI、出産経験、受精胚のグレード、人種、不妊原因、子宮内膜厚を調整しました。
結果
患者背景は全体的に類似していました。レトロゾール排卵周期群では、多胎、高グレードの受精胚移植、排卵障害の割合が高い傾向がありました。妊娠率(レトロゾール排卵周期群 67.1% vs. 自然周期排卵群 62.1%; aOR 1.31, P = 0.21)および出生率(レトロゾール排卵周期群 60.9% vs. 自然周期排卵群 58.6%; aOR 1.17, P = 0.46)は差を認めませんでした。レトロゾール排卵周期群では出産は平均 5.7 日早く生まれ(P < 0.001)、早産児(18.6% vs. 8.0%, ASD = 0.32)および低出生体重児(10.4% vs. 5.0%, ASD = 0.20)が増加しました。分娩週数中央値はレトロゾール排卵周期群 38w1d、自然周期排卵群 39w0dと満期産でした。
私見
レトロゾール使用による先天性異常の発生率の増加はなさそうとされています。
国内からの報告
2017年の研究(694新生児) Tatsumi T, et al. Hum Reprod. 2017;32(6):1244–8.
2022年の研究(510新生児) Takeshima K, et al. F S Rep. 2022;3(2):138–44.
2021年メタアナリシス Pundir J, et al. Hum Reprod Update. 2021;27(3):474–85.
文責:川井清考(WFC group CEO)
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