男性不妊

2024.12.14

2024年米国生殖医学会(ASRM)での演題紹介3-妊活男性と性機能

はじめに

2024年米国生殖医学会で発表されていて興味深かった演題についてご紹介しています。
Fellow社のMail-in semen analysisつまり郵送での精液検査の発表が目立ちました。
このMail-in semen analysisを利用した男性を対象に作成されたデータベースを用いて、男性性機能について調査した発表がありましたのでご紹介します。前回に続いて3つの演題について、タイトルと結果、結論をご紹介します。

研究の紹介

すべて、Amanda Seyer, MD(Urology resident at Mayo Clinic in Rochester, MN)先生が発表者になっています。とても優秀な方なのだと思います。Seyer先生は合計4つ発表していました。

  1. UNDER PRESSURE: STRESS IS NEGATIVELY ASSOCIATED WITH LIBIDO AND INTERCOURSE FREQUENCY

    タイトル:男性パートナーはプレッシャーを感じている:ストレスは、リビドーおよび性交渉の頻度と負の相関があります

    Fertility and Sterility Vol. 122 Issue 4 Supplement e207 Published in issue: October, 2024
    DOI: 10.1016/j.fertnstert.2024.07.682

    結果:不妊検査を受けた男性2,077人が本研究の対象となりました。50.2%が中等度のストレスレベルと回答し、2.6%が高ストレスレベルと回答しました。低ストレスの者は中等度または高ストレスの者よりも高齢でした(それぞれ平均35.4歳対34.3歳、34.0歳;p<0.01)。高ストレスレベルの男性は、中等度(17.2%)または低ストレス(9.5%)の男性と比較して、「性欲がない」または「ひどい」と報告する傾向が強くなっていました(31.4%)(p<0.01)。ストレスは性交渉の頻度の低下と強い関連をもっていました(p<0.01):高ストレスの男性では性交渉が週1回未満であると報告した割合は25.5%であったのに対し、低ストレスの男性では週1回未満の性交渉は6.0%でした。同様に、性交渉の頻度が週6回を超えると答えた高ストレス男性はいませんでしたが、低ストレスの男性では2.8%でした。低ストレスの男性ではIIEF-5で「EDの徴候なし」と評価されたのは80.4%であったのに対して、中等度ストレスの男性では62.3%、高ストレスの男性では56.0%でした(p<0.01)。

    結論:不妊検査を受ける男性の半数以上でストレスレベルが上昇していることを報告しており、このことは性欲や勃起機能に悪影響を及ぼしています。生殖機能の評価を希望する男性の場合、ストレスレベルなどのライフスタイルの要因を評価して、ストレスをコントロールすることを検討していく必要があると考えられます。
  2. IS POOR SLEEP ASSOCIATED WITH POOR SEX? AN ANALYSIS OF SEXUAL DYSFUNCTION IN MEN WITH SLEEP DISORDERS UNDERGOING FERTILITY TESTING

    タイトル:睡眠不足はセックス不足と関連するか?不妊検査を受ける睡眠障害のある男性における性機能障害の分析

    Fertility and Sterility Vol. 122 Issue 4 Supplement e118 Published in issue: October, 2024
    DOI: 10.1016/j.fertnstert.2024.07.388

    結果:本分析の対象となった男性1,919人のうち、7.7%に軽度の睡眠障害を認め、4.4%に中等度から重度の睡眠障害を認めました。睡眠障害が軽度から重度の男性では、睡眠が「正常」レベルの男性と比較して、性欲減退(20.7% vs 13.8%;p=0.01)、射精障害(31.3% vs 19.9%;p<0.01)、オーガズム障害(15.3% vs 5.1%;p<0.01)を多く報告していました。軽度から重度の睡眠障害を有する男性のうち、28.3%が勃起障害の治療を受けたと報告したのに対し、睡眠が通常レベルの男性の17.8%(p<0.01)が、勃起障害の治療を受けたと報告しました。さらに、軽度から重度の睡眠障害を有する男性のうち、「EDの徴候なし」と評価されたのは57.2%のみであったのに対し、睡眠障害のレベルが高くない男性では71.0%でした(p<0.01)。

    結論:睡眠障害は、不妊検査を受ける男性の性欲、射精、オーガズム、勃起機能の低下と関連しています。医療従事者は、生殖機能をより正確に評価するために、初回評価の際に睡眠関連の症状を評価すべきです。
  3. INVESTIGATING RELATIONSHIPS BETWEEN MASTURBATION FREQUENCY AND SEXUAL DYSFUNCTION IN MEN UNDERGOING FERTILITY TESTING

    タイトル:不妊検査を受ける男性におけるマスターベーションの頻度と性機能障害との関係の調査結果

    Fertility and Sterility Vol. 122 Issue 4 Supplement e262 Published in issue: October, 2024
    DOI: 10.1016/j.fertnstert.2024.07.826

    結果:対象となった2,034人の男性のうち、41.2%が週に1〜2回マスターベーションをすると報告しました。21.6%が自慰行為をしないと回答し、週に4回以上の頻度と回答したのは14.2%でした。精液検査での精液量はマスターベーションの頻度による差を認めませんでした(p=0.07)。なお、参加者にはサンプル採取の48時間の禁欲が指示されていました。マスターベーションの頻度が最も高い(週7回以上)と報告した男性は、それより低い頻度と報告した男性と比較して、射精機能障害を報告する可能性が最も低かったのですが(12.0% vs. 21.0%、p=0.04)、オーガズムの障害を報告する可能性が最も高い結果でした(12.0% vs. 5.7%、p=0.02)。最も頻繁にマスターベーションをする(週に7回以上)と報告した男性は、他のマスターベーションの頻度の男性と比較すると、性交渉が週に1回未満と報告することが多く、週に7回以上の性交渉があると報告することも多いという結果でした。

    結論:マスターベーションの頻度が高い人は射精機能も優れていましたが、オーガズムは悪化していました。最も頻繁にマスターベーションをする男性(週7回以上)は、性交渉の頻度が週1回未満と報告することが多い一方で、週7回以上の性交渉を持っていると報告することも多く、これはこのグループの性欲の違いを反映している可能性があります。

筆者の意見

今回ご紹介した発表は、すべて郵送の精液検査を受けた方を対象とした研究です。不妊男性というわけではないですが、これから子供をつくろうとするとか、自分の生殖機能を確認したいと思った方が対象だと思います。
このような男性では、睡眠障害があると男性機能、リビドーが低下あり、多くがストレスを受けていて、そのストレスによって勃起障害が生じて性交渉の頻度が低下していました。一方マスターベーションの頻度が多い方は、性交渉が少ないか多いかに分かれるようです。
妊活での性交渉で男性パートナーがプレッシャーを受けるのは、どうも日本でもアメリカでも共通のようです。精液検査自体も気が進まないので仕方ないと思います。
男女のパートナーがお互いの気持ちや考え、体の状態を尊重し、理解し、相談しながら妊活に取り組んでいただければよいな、と改めて思いました。男性がプレッシャーを受ける気持ちを女性パートナーのかたもわかっていただけると幸いです。

文責:小宮顕(亀田総合病院 泌尿器科部長)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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