男性不妊

2024.01.27

AIでマイクロTESEでの精子採取を予測可能!

研究の紹介

AI Model Developed Using Machine Learning for Predicting Sperm Retrieval in Micro-TESE for Nonobstructive Azoospermia Patients 

非閉塞性無精子症患者のマイクロTESEにおける精子採取予測のための機械学習を用いたAIモデルの開発 

Kobayashi H et al., Andrologia Volume 2023, Article ID 5693116, 10 pages, 
https://doi.org/10.1155/2023/5693116

非閉塞性無精子症(non-obstructive azoospermia, NOA)では、精子採取のために外科的な精巣内精子採取が必要です。我が国では顕微鏡下精巣内精子採取術(microdissection testicular sperm extraction, micro-TESE)が広く行われています。海外では、conventional TESEも行われています。NOA症例における外科的な精巣内精子採取術での精子採取を予測する確立された有用な因子はありません。本研究は日本の東邦大学の小林先生のグループの研究で、いろいろな臨床的な因子を用いて機械学習でAIモデルでの精子採取を予測する研究です。これまでconventional TESEでのAIモデルはありましたが、micro-TESEでのAIモデルはありませんでした。 

要旨: 

これまでの研究では、micro-TESEでの精子採取の結果を正確に予測できる臨床的因子は同定されていません。micro-TESEでの精子採取率はあまり高くないため(日本では30-40%程度)、micro-TESEを行う前に、NOA患者の精子採取の可能性を予測できるツールがあればとても有用です。この研究では、2011年から2020年までにmicro-TESEを施行された430症例のデータが後ろ向きに解析されました。使用したパラメータは、年齢、身長、体重、肥満度、黄体化ホルモン、卵胞刺激ホルモン、PRL、総テストステロン(T)、E2(エストラジオール)、T/E2比、精子採取の有無、Gバンド、AZF、病歴、右精巣体積、左精巣体積でした。精子採取のAI予測モデルの作成には、コーディングを必要としないPrediction One(Google Cloud)が使用されました。Prediction Oneは、内部クロスバリデーションによるartificial neural networkを用いて最適な予測モデルを作成するツールです。また、Prediction Oneは、変数の重要度を評価することができます。 
AIモデルのAUCは0.7246であり、許容範囲内(standard)でした。また、変数の中では、T/E2比が精子採取の可否の予測に最も重要と判定されました。しかしながら、精子採取に成功した場合と失敗した場合のT/E2比に統計学的に有意差はありませんでした。 
さらに、2021年にmicro-TESEを受けた20人の患者のデータを分析したところ、85%において、実際の結果が新しいAIモデルを用いて予測した結果と一致していました。

結論: 結論としては次のようになります。micro-TESEを受ける前のNOA症例の精子採取を予測するAIモデルが作成されました。さらに、機械学習を使用してNOAにおける精子採取の可能性を予測するのに最も重要な因子はT/E2比であることがわかりました。 

2021年に実施した20症例のMicro-TESEのデータ: 

予測された精子採取の有無と実際の精子採取の有無の結果

症例数
AIモデルで精子採取と予測3
実際に精子採取できた症例3
AIモデルで精子採取不可と予測17*
実際に精子採取できなかった症例14
予測と実際の結果の一致率(%)85

*3例は採取できた。 

筆者の意見

この論文は、AIモデルを用いて、micro-TESEの精子採取を予測するものとして世界初のものと思われます。NOAの診断や治療方針決定、手術の実施環境は施設ごとに異なりますので、このAIモデルが他の施設でそのまま利用できるかどうかはわかりません。しかしながら日本人のデータを用いたAIモデルであり、とても有用であることは確かです。 
この予測の結果によって、つまり取れるとの予想の場合や取れないとの予想の場合で手術方法を工夫したり、将来的には患者さんにも共有していくことも考えられます。この研究のさらなる発展に期待します。 

文責:小宮顕(亀田総合病院 泌尿器科部長)

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