体外受精

2023.08.31

男性不妊がなければICSIは不要(Fertil Steril. 2023)

はじめに

「顕微授精を行った方がよいですか?」と患者様から質問されることが多くあります。 基本的には、「男性因子がなければ、顕微授精は不要です」とお答えしています。ただし、どこまでを男性因子と定義するかが難しいポイントです。 非男性因子不妊症患者で、顕微授精と媒精における正倍数性胚率に焦点を当てた報告をご紹介いたします。

ポイント

男性因子がない場合には、着床前検査を踏まえても、顕微授精を行うメリットはなさそうです。

引用文献

Karishma Patel, et al. Fertil Steril. 2023 Aug;120(2):277-286. doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.04.020.

論文内容

2014年1月から2021年12月に体外受精3,554名を対象とし非男性因子患者の媒精(IVF)・顕微授精(ICSI)の成績をPGT-Aも含めて比較した単一生殖医療施設でのレトロスペクティブ・コホート研究です。非男性因子の基準として、過去の受精障害がないこと、調整後精子濃度>400万/mlとしています。 主要評価項目はICSI群とIVF群における生検胚あたりの正倍数性胚率とし、副次評価項目は受精率と生検胚数としました。

結果

回収卵子数と生検胚数は両群で同程度でしたが、回収卵子あたりの受精率はICSI群で低くなりました(0.64 vs. 0.66)。ICSI群の正常胚率は、IVF群と比較して低く(0.47 vs. 0.52)、正倍数性胚比は0.89でした。生検実施時期を調整しても正倍数性胚比は変化しませんでしたが、PGT検査施設を調整した場合には正倍数性胚率比は0.97と有意差がなくなりました。

私見

この報告同様、ASRM2018のポスター発表でH.K.Swearmanらは、非男性不妊患者へのICSIはIVFに比べて正倍数性胚率が低いと報告しています。 反対に、ヒアルロン酸結合を用いた精子選択をおこなったICSIでは流産率が減少することが報告されています。

R. West, et al. Hum Reprod, 37 (2022), pp. 1106-1125
P. Scaruffi, et al. Andrology, 10 (2022), pp. 677-685

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 顕微授精(ICSI)

# 精液検査

# 着床前遺伝学的検査(PGT)

# 媒精(IVF)

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