はじめに
「卵巣刺激によって卵子の質が変わりますか?」と質問されることが多くあります。卵巣予備能が正常で、卵巣反応不良女性ではFSHとLHの併用治療が有益である可能性がPOSEIDONグループの報告でも示され始めています。(Alviggi C, et al. Fertil. Steril. 2016;105:1452–1453. Humaidan P, et al. Front. Endocrinol. (Lausanne.) 2019;10:439. Conforti A, et al. Front Endocrinol (Lausanne) 2019;10:387.)
卵巣刺激で用いる製剤(FSH注射 vs. FSH+LH注射)で、卵胞液中のステロイドホルモン組成が変わるかどうか調べた前向き研究をご紹介いたします。
ポイント
卵胞液ステロイドホルモンは卵巣刺激プロトコルに影響されること、また卵胞液ステロイドホルモンは卵子成熟度と関連することがわかりました。成熟卵子を得るための刺激方法の選択に役立つ知見です。
引用文献
S Marchiani, et al. Sci Rep. 2020 Jul 31;10(1):12907. doi: 10.1038/s41598-020-69325-z.
論文内容
FSH単剤で刺激した女性13名から採取した111個の卵胞液と、FSHに対する反応性が低下していたためFSH+LHで刺激した女性28名から採取した205個の卵胞液について、ステロイドレベルを評価しました。目的として(1)卵胞液ステロイド組成およびレベルが卵巣刺激プロトコルに影響されるかどうかを評価すること、(2)卵胞液ステロイドレベルが卵子成熟および体外受精結果と関連するかどうか評価すること、としました。
対象は43歳未満の卵巣予備能の保たれた女性で、PCOS患者、子宮内膜症患者を除外しています。卵巣刺激はGnRHアンタゴニスト法で実施しています。卵胞ごとにステロイドホルモンは6種類をHPLC-MS/MS法で測定しました。[プロゲステロン、17-ヒドロキシプロゲステロン、アンドロステンジオン、テストステロン、エストロン、エストラジオール]
結果
17-ヒドロキシプロゲステロン、アンドロステンジオン、エストラジオール、エストロンはFSH+LH製剤で高値となりました。プロゲステロン、17-ヒドロキシプロゲステロン、エストラジオールはFSH+LH製剤で成熟卵子を含有した卵胞液で多く発現していました(p<0.01)。プロゲステロン濃度は、FSH単独プロトコールにおける正常受精率と相関していました。測定された卵胞液ステロイドはいずれも胚盤胞の品質および妊娠成立に関連しませんでした。
この結果から、反応不良女性にLHを補充すると、卵巣のステロイド産生が変化し卵巣反応の改善に寄与する可能性があることがわかりました。
私見
卵胞液中のステロイド[プロゲステロン、17-ヒドロキシプロゲステロン、アンドロステンジオン、テストステロン、エストロン、エストラジオール]濃度は胚盤胞グレード、成績にも影響を与えませんでしたが、一部のホルモンで成熟率・受精率とは差がつきました。
FSH単独の卵巣刺激ではなく、LH追加の必要性を示した報告は数多くあります。症例を選んでFSH製剤とHMG製剤は使い分けていく必要がありそうです。
総説:
Thor Haahr, et al. Reprod Biol Endocrinol. 2018;16:20.
臨床研究:
Acevedo B, et al. Fertil Steril 2004;82:343–347.
Ruvolo G, et al. Fertil Steril 2007;87:542–546.
Paterson ND, et al. J Assist Reprod Genet 2012;29:579–583.
Santi D, et al. Front Endocrinol (Lausanne) 2017;8:114.
文責:川井清考(WFC group CEO)
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