はじめに
妊娠しやすそうなカップル(12ヶ月累積継続妊娠30-40%)の「卵巣刺激を用いた人工授精」は、「自己妊活」に比べて成績が向上しないことが過去の報告からわかっています。そのことからも、妊娠しやすそうなカップルは、まずは「自己妊活」が好ましいとされる現在の流れの方向性を作られました(Pieternel Steures, et al. Lancet. 2006 Jul 15;368(9531):216-21.)。
今回、同じオランダチームが妊娠しにくそうなカップルでは「卵巣刺激を用いた人工授精」と「自己妊活」どちらがよいのかを調査した報告となります。
ポイント
妊娠しやすそうなカップルは「自己妊活」から始めるべきですが、妊娠しづらそうなカップルでは「卵巣刺激を用いた人工授精」が「自己妊活」より6ヶ月後の継続妊娠率は高そうです。原因不明不妊で予後不良のカップルは「タイミング療法」より「卵巣刺激を用いた人工授精」が推奨される根拠となります。
引用文献
J A Wessel, et al. Hum Reprod. 2022 Nov 4;deac236. doi: 10.1093/humrep/deac236.
論文内容
オランダにおいて非劣性多施設RCTを実施しました。3年以内に1,091組のカップルを含めることを計画し、1:1の割り付けで6ヶ月の「妊活」または6ヶ月の「卵巣刺激を用いた人工授精」(クエン酸クロミフェンまたはゴナドトロピンのいずれか)としました。対象は原因不明不妊で、自然妊娠の予後が悪い(12ヶ月で30%未満)と判断されるカップルを対象としました。主要評価項目は、出生率としました。
非劣性は、卵巣刺激を用いた人工授精後の予想出生率30%と比較して、片側90%のリスク差のRD CIがマイナス7%未満である場合としました。ITT分析ならびにPPT分析にもとづいてRD、90%CIによるRR、HRを算出しました。
結果
2016年10月から2020年9月の間に、92組を「妊活」に、86組を「卵巣刺激を用いた人工授精」に割り付けました。組み入れに時間がかかったため、試験は途中で中断となりました。女性の平均年齢は34歳、不妊期間の中央値は21カ月でした。
「妊活」群12/92(13%)に対して「卵巣刺激を用いた人工授精」群28/86(33%)でした(RR: 0.40, 90%CI 0.24-0.67、RD: -20%, 90%CI: -30%–9% HR: 0.36, 95%CI 0.18-0.70)。PPT解析では、「妊活」群70名中8名(11%)に対して「卵巣刺激を用いた人工授精」群73名中26名(36%)でした(RR: 0.32, 90%CI 0.18-0.59; RD: -24%, 90% CI -36%–13%)
私見
今回の研究は妊娠しなさそうなカップルの場合は「卵巣刺激を用いた人工授精」から始めるのが好ましいことを裏付ける研究結果となっています。この研究の信頼性は以前、妊娠しやすそうなカップルでは「妊活」からスタートが好ましいとしたグループの追加試験だったところにも信憑性があります。残念なところは研究プロトコールと資金の問題で予定数の1,091組から178組で打ち切りとなったこと、「妊活」群の途中脱落が多かったことです。
今回の妊娠不良群の定義ですが、12ヶ月の不妊期間があり、排卵障害がなく、卵管疎通性の片方が確認されていて、総運動精子数300万以上としています。
12ヶ月以内の妊娠予測ですが、Hunaultの予測モデルを用いて算出しています(C C Hunault, et al. Hum Reprod. 2004 Sep;19(9):2019-26.)。
このモデルは、女性年齢、不妊期間、妊娠歴があるか、専門的知識がある施設からの紹介があるか、性交後検査、精液所見の状況から妊娠予測を推測しています。
そのうえで研究参加カップルは下記のように定めています。
・女性年齢が18歳-38歳で、Hunaultスコアが30%未満
・女性年齢が38歳-43歳
・女性年齢が18歳-38歳で、Hunaultスコアが30%以上だったが、少なくとも6ヶ月間妊娠できず治療を再検討したカップル
文責:川井清考(WFC group CEO)
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