はじめに
PPOSを行う際、プロゲスチンの投与はHMG/FSH注射と同じ月経3日目前後から開始することが一般的です。Flexible PPOSは、一定期間FSH/hMG製剤を投与し一定の卵胞発育が得られてからプロゲスチンを開始する方法です。卵巣刺激途中での早発LHサージが出てしまったり、採卵前に排卵してしまったりするリスクが懸念される一方、複数の利点があります。新鮮胚移植をするか、全胚凍結をするか迷った時、まずはFSH/hMG製剤でスタートしOHSSリスクなどが高い場合PPOS法に切り替えることが可能となります。他にもプロゲスチンを途中から使用することにより卵胞期初期の下垂体抑制がないため、発育卵胞数が多く見込める可能性もあります。
過去の報告は以下のとおりです。
ポイント
Flexible PPOSは卵巣刺激途中からプロゲスチンを開始する方法で、早発LHサージや採卵前排卵のリスクについては現時点で結論が出ていません。Poor responder女性では特に排卵リスクを意識した管理が必要そうです。
引用文献
①Flexible PPOSの早発LHサージ、採卵前排卵は上昇しないという報告
A) Yildiz S, et al. Fertil Steril. 2019.
B) Turkgeldi E, et al. Hum Fertil (Camb). 2020.
C) Erkan Kalafat, et al. Front Endocrinol (Lausanne). 2022.
②Flexible PPOSの早発LHサージ、採卵前排卵は上昇するという報告
Doğan Durdağ G, et al. J Turk Ger Gynecol Assoc. 2021
論文内容
①Flexible PPOSの早発LHサージ、採卵前排卵は上昇しないという報告
A) Yildiz S, et al. Fertil Steril. 2019.
月経7日目あるいは、主席卵胞径14mm以上となったタイミングでMPA 10mg/日を開始するFlexible PPOSとGnRHアンタゴニスト法を両方行った平均年齢25歳のHigh responder若年女性を対象とし生殖成績を比較しました。Flexible PPOSでは排卵は認められず、GnRHアンタゴニスト法に比べて採卵個数や成熟卵個数が多く、その後の胚発生・胚移植成績に差を認めませんでした。
B) Turkgeldi E, et al. Hum Fertil (Camb). 2020.
Poor responder女性に対して、主席卵胞径14mm以上、もしくは血清E2 200ng/mL以上となったタイミングでMPA 10mg/日を開始するFlexible PPOSとGnRHアンタゴニスト法を比較し、採卵個数や成熟卵子数に差がないことを報告しました。
C) Erkan Kalafat, et al. Front Endocrinol (Lausanne). 2022.
Poor responder女性に対して、主席卵胞径14mm以上、もしくは血清E2 200ng/mL以上となったタイミングでMPA 10mg/日を開始するFlexible PPOSと通常のPPOSを比較しました。年齢とAMH値を用いた傾向スコアマッチングを行った結果、トリガー日の14mm以上の発育卵胞数、成熟卵子個数に差は認めませんでした。
②Flexible PPOSの早発LHサージ、採卵前排卵は上昇するという報告
Doğan Durdağ G, et al. J Turk Ger Gynecol Assoc. 2021
Poor responder女性において、GnRHアンタゴニスト法と比較して、主席卵胞径12mm以上、もしくは血清E2 400ng/mL以上となったタイミングでDYG 40mg/日を開始するFlexible PPOSでは早発排卵の割合が高かった(11.5 vs. 0.0%)と報告しました。
実は①の3つの報告は同一グループからの報告です。また②の報告は①とは異なるプロゲスチンを使用しているので同じ条件での比較ではありません。つまり、まだFlexible PPOSの早発LHサージ、採卵前排卵のリスクに関しては結論が出ていないのが現状です。Flexible PPOSを行う際には、poor responder女性には排卵リスクを意識し行う必要があると考えられます。
文責:川井清考(WFC group CEO)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。