はじめに
PPOS(プロゲスチンプロトコール)は様々な黄体ホルモンを用いて行われています。黄体ホルモンの選び方は①排卵しないこと、②費用対効果です。MPAを用いた先行論文が多いので、海外ではMPAが使用されることが多いですが、日本ではデュファストン®️とルトラール®️を用いてPPOSを実施されることが多くなっています。ルトラールを用いたPPOSの論文をご紹介させていただきます。
ポイント
ルトラール4mg/日以上の服用で早発LHサージを完全に抑制でき、GnRHアンタゴニスト法と同等の臨床成績が得られました。内服薬で費用対効果も高いため、ルトラール-PPOSは有用な卵巣刺激法として推奨されます。
引用文献
Yuya Takeshige, et al. Fertil Reprod. 2020. DOI: https://doi.org/10.1142/S2661318220500048
論文内容
日本のART施設で実施された後方視的研究です。ルトラールを12、6、4、2mg/日服用した4群、あるいはGnRHアンタゴニストを用いた群の231周期で実施しました。ルトラール-PPOS群では、月経周期3日目よりルトラール+hMG or FSHの投与を実施しました。早発LHサージ率、胚成績、臨床成績を検討しました。
結果
早発LHサージはルトラール12、6、4mg/日-PPOS群で完全に抑制できました。GnRHアンタゴニスト法では一部に早発LHサージが認められました(5.9%、7/118)。しかし、どの群でも排卵は認められず、臨床成績は同等でした。
ルトラールは内服薬で費用対効果も高いため、ルトラール-PPOS群は有用な卵巣刺激法であることが認められました。ルトラール4mg/日を連日服用することで、早発LHサージを起こすことなく卵巣刺激を行うことができました。
当検討でルトラール2mg/日ではなく4mg/日を推奨した理由は、2mg/日の1例が途中で早発性LHサージ(LH:12.0mIU/mL)を示したからです。この段階で、投与量を2mg/日から4mg/日に変更したところ、早発LHサージは抑制され(LH:4.5mIU/mL)、回収卵子数、結果も異常ない結果に落ち着いています。
私見
ルトラールは経口投与後、速やかに吸収されfirst pass effectをほとんど受けず、バイオアベイラビリティはほぼ100%です。単回投与後の半減期時間は約34時間、複数回投与の場合は約38時間です(Curran et al. Drugs. 2004)。脂肪組織に蓄積され排泄はゆっくり行われ、7日後には投与量の34%しか排泄されていません(Adolf E. Schindler, et al. Maturitas. 2008)。飲み忘れても持続効果が高く、premature LHサージ抑制には相性がよいのではないかと思っています。
ルトラールは保険適用下でのPPOSに対する黄体ホルモン製剤として使用できませんので、最近使用頻度が低下しています。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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