体外受精

2022.06.24

45歳以上の体外受精は生児を授かる治療としては「無益」・・・(Fertil Steril. 2022)

はじめに

加齢に伴う卵子の質と量の低下は、体外受精の成績に影響を与える大きな要因です。45歳以降に着床前診断で正倍数性胚盤胞が出てくる可能性、生児を出産できる可能性は極めてゼロに近いとされています。女性年齢についで、妊娠・出産を予測する因子は採卵時にとれる成熟卵子数、移植可能受精胚数です。
予後が非常に悪いカップルには、予後、リスク、費用、自身の卵子以外で子供を授かる代替案について説明することが好ましいとされています。
こちらに対して、比較的わかりやすくまとめたレビューをもとに年齢が高い女性の体外受精での治療効果が乏しいことをご説明させていただきます。治療を拒否するわけではなく、夫婦が前を向くためにどこかで治療の限界を理解し終結し前を向いていかなくてはいけません。生殖医療にかかわる私たちに何ができるか、日々向き合う課題でもあります。

ポイント

45歳以上の体外受精では着床前診断での正倍数性受精胚獲得率が極めて低く、出生率は1%未満となります。米国生殖医学会倫理委員会は出生率1%未満を「無益」と定義しており、治療の限界を理解し代替案を提示することが重要です。

引用文献

Hakan Cakmak. Fertil Steril. 2022. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2022.02.027

論文内容

「無益」とは非情な言葉であり、子供が欲しいカップルからすると非常に冷酷で医療者に対して怒りを覚える言葉であることも十分理解しています。米国生殖医学会倫理委員会は、不妊治療における生児出産の可能性が1%未満を「無益」、1%~5%を「予後不良」と定義しています。
生殖医療医師と子供が欲しい高齢女性の間で治療に対する意見相違や対立が生まれることは全世界的に共通であります。これらの対策としてクリニック側にできることは、①クリニックの成績やエビデンスに基づき、治療を提供する女性年齢や治療を中断する条件をポリシーとして定めること、②チームとして、患者のステージが「無益」「予後不良」かと複数の医師で判断し、定期的に目標設定(治療を行わない、治療開始・継続・中断)を行うこと、③子供を授かるうえでの代替案を提示する環境を準備すること が選択肢に挙げられます。
卵子の質を向上させ、異数性を減少させる代替療法(ミトコンドリア異種移植/自家移植、テロメラーゼ活性の再活性化、CRISPR/Cas9システム)などは、この先、解決策の一端となる可能性はありますが、現在では有効性が確立されていない、倫理的に許可されないなどの理由から臨床的解決策として提示する方法には至っていませんので、女性年齢による生殖医療成績の低下を治療することは現段階では困難であると考えられます。
高齢女性を対象とし、なぜ45歳以上女性の自己卵子での体外受精が「無益」とされるかの参考報告は以下の通りです。

●J.M. Franasiak, et al. Fertil Steril. 2014
胚盤胞の着床前診断から31歳以降に異数性の割合は増加し、43歳で85%に達することが分かっています。女性年齢46歳で正倍数性胚がとれたという報告がないわけではありませんが、症例数は4例で回収卵子数が12個/回あり、43個着床前診断を実施し12個正常胚となっています。この報告でも女性年齢47歳以上では、20個着床前診断を実施し正倍数性胚は0個となっています。

●国内の女性年齢別の移植成績は胚移植を行った年齢であり、卵子を採取した年齢ではありませんので、体外受精治療スタート年齢別にみると、もっと成績が低いことが考えられます。

●S. Klipstein, et al.Fertil Steril. 2005
40歳以上の女性(n = 2,705、40〜49歳、ほとんどが分割期胚移植)における年齢別の着床率を調べた研究では、体外受精開始あたりの着床率は40歳で14%、44〜45歳で1〜2%に減少し、45歳以上では0%であり、累積出生率(平均2.3体外受精周期)は、40歳からの体外受精開始で28%、44-45歳での開始で2%-5%に減少し、45歳以上での開始で0%になりました

●A. Hourvitz, et al.Reprod Biomed Online. 2009
42歳以上の女性(n = 843、42-47歳)での体外受精1周期あたりの出生率は、42歳、43歳、44歳女性でそれぞれ4.2%、3.3%、0.6%であり、44歳以上の女性では出生はありませんでした。

●V. Gunnala, M, et al. J Assist Reprod Genet. 2018
45歳以上の女性(n=1,078、45〜49歳)を対象とした研究では、12%の症例で、FSHが高い、卵胞シストがあるために予定した治療を開始せず、29%の症例で、卵巣発育反応がないために採卵前に治療を中止しています。胚移植あたりの妊娠率は19%でありましたが流産率が82%と高く、採卵あたりの着床率はわずか3%でした。45歳以上で4個以上の回収卵がある女性しか生児出産に至っていませんでした。

●N. Gleicher, et al. Reprod Biol Endocrinol. 2014.
N.M. Alasmari, et al. J Assist Reprod Genet,. 2016
V. Gunnala, et al. Fertil Steril. 2014
45歳以上ではほぼ出生に到達しないという報告

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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