体外受精

2021.07.07

GnRHアンタゴニスト法における早発LHサージ(Reprod Biol Endocrinol. 2013.)

はじめに

nRHアンタゴニストfixed法/flexible法でディスカッションに上がるのが卵胞発育に伴うLHの上昇とプロゲステロン値の上昇です。ガニレスト投与前に早期LH上昇が見られる女性は適切にアンタゴニスト製剤を使うことにより回収卵子数も減らず、質も担保されることがわかっています。ただしLHを抑制しきれず排卵をしてしまうと採卵は中止になりますし、アンタゴニストを用いてもLH上昇を止められない場合やプロゲステロン値が上昇してしまうと回収卵が減ったり、新鮮胚移植の成績が低下するとされています。 
卵巣刺激開始6日目における早期LH上昇の発生率は、リコンビナントFSH(rFSH)の開始用量が225IUの場合は15%(North American Ganirelix Study Group. Fertil Steril 2001)、rFSHの開始用量が150IUの場合は4.3%(European Orgalutran Study Group. Hum Reprod 2000)とされています。 
2013年にrFSHによって卵巣刺激を開始した2000名以上の患者を対象に、ガニレスト投与前の卵巣刺激開始時5日目または6日目、またはガニレスト投与中に発生したLH上昇の発生率とその臨床的影響を評価した論文をご紹介します。 

ポイント

ガニレスト投与前の早期LH上昇は卵巣反応が高く回収卵数が多い傾向にあり、継続妊娠率への影響は認めません。しかし、ガニレスト投与中のLH上昇は回収卵数の減少と継続妊娠率の低下傾向を示します。ガニレスト開始を6日目ではなく5日目にすることで早期LH上昇をさらに抑制できる可能性があります。 

引用文献

John L Frattarelli, et al. Reprod Biol Endocrinol. 2013. DOI: 10.1186/1477-7827-11-90. 

論文内容

ガニレスト®︎(ganirelix)をrFSHによる卵巣刺激の5日目に開始した3つの試験(n=961)と、ganirelixを6日目に開始した5つの試験(n=1135)を後方視的に解析しました。

結果

ガニレスト投与前のLH上昇(LH≧10.0IU/L)の発生率は、ガニレスト投与開始5日目と6日目でそれぞれ2.3%と6.6%(P<0.01)、ガニレスト投与中のLH上昇発生率は、それぞれ1.2%と2.3%(P=0.06)となりました。LH上昇が5日目または6日目に見られた女性は、卵巣反応が高く、回収された卵子の数が多い傾向にありました(平均±標準偏差、LH上昇あり12.9±8.5 vs. LH上昇なし、10.2±6.4(P<0.01))。ガニレスト投与前にLH上昇があった女性となかった女性では、継続妊娠率は同じでした(26.0% vs. 29.9%、OR, 0.89、95%CI, 0.55-1.44)。ガニレスト投与中にLHが上昇した女性は、採卵時の回収卵子数が7.5±6.7個と、LHが上昇しなかった場合の10.2±6.4個に比べて低く(P=0.02)、継続妊娠率も低い傾向にありました(16.7% vs 29.9%; OR, 0.52; 95% CI, 0.21-1.26)。 

私見

早期および後期のLH上昇の発生率は低いですが、ガニレストを卵巣刺激開始時の6日目ではなく5日目で開始することにより、さらに抑制する可能性があります。ガニレスト投与中にLH上昇した場合、継続妊娠の可能性が低くなる可能性があります。 
当院でのGnRHアンタゴニストflexible法におけるガニレスト投与前の早発LHサージは、採卵まで実施した患者様の中でLH>10IU/L: 7.4%(37/503)、LH>20IU/L: 1.4%(7/503)いらっしゃいます。LH>20IU/Lとなった7名のうち6名はLHサージ上昇に伴った採卵での胚移植(凍結融解胚移植)で臨床妊娠に至っておりますので、もちろんLH上昇に伴う排卵後などのリスクも説明し、患者様と卵巣刺激キャンセルする選択肢もお伝えした上で、続ける選択肢を提示することが多いです。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# GnRHアンタゴニスト

# 排卵誘発、トリガー

# 卵巣刺激

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

この記事をシェアする

あわせて読みたい記事

トリガーから採卵までの最適時間:GnRHアゴニストvs hCG(F S Rep. 2025)

2025.11.26

PP法とGnRHアンタゴニスト法比較:システマティックレビューとメタアナリシス(J Assist Reprod Genet. 2025)

2025.09.19

DYD-PPOS vs. MPA-PPOS vs. GnRHアンタゴニスト(J Assist Reprod Genet. 2025) 

2025.07.08

卵巣反応性不良患者における自然周期と調節卵巣刺激の累積生児獲得率(J Assist Reprod Genet. 2025)

2025.07.03

フォリトロピンデルタを用いたPPOS法 vs. アンタゴニスト法(Cureus 2025)

2025.06.05

体外受精の人気記事

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

凍結胚移植当日の血清E2値と流産率(Hum Reprod. 2025)

自然周期採卵における採卵時適正卵胞サイズ(Frontiers in Endocrinology. 2022)

年齢別:正倍数性胚盤胞3個以上を得るために必要な成熟凍結卵子数(Fertil Steril. 2025)

高年齢の不妊治療で注目されるPGT-A(2025年日本の細則改訂について)

PGT-Aによる体外受精での出産までの期間への影響(Fertil Steril. 2025)

今月の人気記事

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

2025.09.03

レトロゾール周期人工授精における排卵誘発時至適卵胞サイズ(Fertil Steril. 2025)

2025.09.03

凍結胚移植当日の血清E2値と流産率(Hum Reprod. 2025)

2025.06.09

自然周期採卵における採卵時適正卵胞サイズ(Frontiers in Endocrinology. 2022)

2025.03.25

年齢別:正倍数性胚盤胞3個以上を得るために必要な成熟凍結卵子数(Fertil Steril. 2025)

2025.10.06

2024.03.14

禁欲期間が長いと妊活にはよくないです

2024.03.14