はじめに
初診の患者様の問診票を見ていると気管支喘息の既往を記載されているのを数多く目にします。小児喘息の有病率は約7%、成人喘息は4%と推察されるので当然のような気もします。ここで問題になるのは卵管評価の子宮卵管造影を行っていいのかどうかです。
「子宮卵管造影 喘息」で調べると「実施できません。卵管通水などで代替しましょう」と書かれている意見が大半です。なぜ意見が分かれるのでしょうか。
ポイント
気管支喘息既往のある患者への子宮卵管造影は禁忌ではありませんが、慎重投与が必要です。発作がコントロール下にあり、リスク因子が少ない症例に限り、十分な説明と同意のもとで実施を検討できます。非イオン性造影剤を用いた局所造影では、気管支喘息既往者の重篤な副作用発症率は一般集団の2-5倍程度と考えられています。
引用文献
Katayama H, et al. Adverse reactions to ionic and nonionic contrast media. A report from the Japanese Committee on the Safety of Contrast Media. Radiology. 1990;175(3):621-8.
論文内容
イソビスト®による副作用の症状は軽度なものから重度なものまであるのですが、喘息の既往歴がある患者ではアレルギー歴のない患者に比べてヨード造影剤による重篤な副作用発現率が高いことが報告されています。イソビスト®は非イオン性造影剤なのでイオン性造影剤より造影剤アレルギー発症リスクが低いですし、子宮卵管造影は局所造影なので血管造影ほどリスクが高くないのですが、どのような異常が出るのでしょうか。
Katayamaらは血管造影を含めたイオン性、非イオン性造影剤使用の副作用をまとめた論文をRadiology 1990に報告していて、これが、子宮卵管造影が気管支喘息患者に慎重投与となった元論文になっているようです。
結果
- 168,3633名で検証した結果、非イオン性造影剤の造影剤アレルギーは3.13%、重篤な副作用は0.044%でした。
- 重篤な副作用70名の内訳は下記の通りでした。
a:呼吸困難 50名
b:血圧低下 15名
c:呼吸困難+血圧低下 2名
d:血圧低下+意識消失 3名 - 気管支喘息の既往がある患者での非イオン性造影剤使用の重篤な副作用発症率は0.1%でした。
- 気管支喘息の既往がある患者での非イオン性造影剤使用の副作用発症率は1304名中101名(7.75%)、重篤な副作用発症率は3名(0.23%)となり一般集団に比べて高い傾向がありました。
気管支喘息既往がある患者で造影剤によるアレルギーの発症頻度が10倍になると言われるのはイオン性造影剤による発症も含めた報告であり、造影部位も血管内造影等の全身に作用するものも含んだ割合です。非イオン性造影剤に限定すると気管支喘息の既往がある患者の造影剤アレルギーリスクは通常患者群と比べて2-5倍と考えられます。
私見
私たちも気管支喘息患者様に子宮卵管造影を実施するにあたり、卵管通水や子宮鏡下通色素検査の代替手段の説明のうえ、「気管支喘息がコントロール下にあり、長い期間発作を起こしておらず、その他のリスク因子がなく、子宮卵管造影が必須と考える症例に限り」と患者様に説明の上、実施を検討しています。
子宮卵管造影は気管支喘息患者では禁忌ではありませんが、施設やスタッフなどの環境下で実施を見送る施設が大半であるのが、患者様の利害を考えた上での判断となりますので、担当医に相談していただくのが一番だと考えます。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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