不育症

2020.12.25

流産予防に経口プロゲステロン製剤は効くの?(Hum Reprod. 2020)

はじめに

プロゲステロンは妊娠の維持に重要な役割を果たしており、低値は流産の原因になると考えられています。胎盤からの産生が安定する10週まで外因性に補充することにより流産率が低下するのではないかと考えられてきました。2018年に更新されたコクラン・レビュー(Wahabiら)のサブグループ解析では、経口プロゲステロン製剤による治療は流産率を低下させましたが、腟プロゲステロンによる治療は流産率を低下させる効果がほとんどないことがわかりました。経腟プロゲステロン製剤の使用は流産を減らすのに有効ではありませんが、切迫流産の患者名には流産の恐れがある場合、経口プロゲステロン製剤が本当に有効かを示す良い報告がありません。ダブルブラインド試験がでてきましたのでご紹介いたします。

ポイント

切迫流産の女性に対して経口プロゲステロン製剤(ジドロゲステロン)を投与しても、プラセボと比較して20週前の流産率は減少しませんでした。しかし、副作用もほぼないため、少しでも流産を減らせる可能性があるなら使用を検討する価値はあると考えられます。

引用文献

Chan DMK, et al. Hum Reprod. 2020. DOI: 10.1093/humrep/deaa327.

論文内容

無作為化ダブルブラインド対照試験です。2016年3月30日から2018年5月までの間に、初期流産の可能性がある406名の女性を対象としました。
患者名には妊娠12週目まで、もしくは性器出血が止まって1週間後のどちらか遅い方までジドロゲステロン40mgを経口投与し、その後10mgを1日3回経口投与するか、プラセボを1日3回投与するかを割り付けました。主要評価項目は妊娠20週までの流産率でした。

結果

ジドロゲステロン群、プラセボ群ともに年齢(31歳前後)、BMI、既往流産回数、診察時の妊娠週数および超音波所見に差はありませんでした。妊娠20週前の流産率は両群で同様であり、ジドロゲステロン群では12.8%(26/203)、プラセボ群では14.3%(29/203)でした(相対リスク0.897、95% CI 0.548-1.467;P=0.772)。出生率はジドロゲステロン群81.3%に対し、プラセボ群83.3%でした(P = 0.697)。産科的転帰や副作用については、両群間に有意な差は認められませんでした。
経口プロゲステロン製剤を使用すると、プラセボと比較して流産率が低下するか?については、流産の恐れのある女性に経口プロゲステロン製剤を投与しても、プラセボと比較して20週間前の流産は減少しませんでした。

私見

彼らも記載しておりますが、コクラン・レビューでは経口プロゲステロン製剤の有効性が報告されておりますし、最近の大規模な無作為化試験(Coomarasamyら、2019年)を含む最新のメタアナリシス(Liら、2020年)でも、経口黄体ホルモンの使用は流産のリスクを減少させ、出生率を増加させたことが示されています。また、習慣流産既往の患者名に対して、腟プロゲステロン製剤を使用した場合、15%の出生率の増加(72% vs. 57%;RR 1.28;95% CI 1.08-1.51;P =0.004)があったことが報告されています(Coomarasamyら、2019年)。
ジドロゲステロン(デュファストン)は当院でもよく使用する経口プロゲステロン製剤です。非常に良好な経口バイオアベイラビリティを持つレトロプロゲステロンであり、構造的にも薬理学的にも天然のプロゲステロンに非常によく似ています。また、母体のプロゲステロン形成を阻害しないので、最初の3ヶ月間の使用は全体的に安全であると考えられます。妊娠中の安全性については、プロゲステロン製剤が性器発達障害のリスクを増加させる可能性があるといういくつかの初期の提案(Goujard, Rumeau-Rouquette. 1977; Noraら. 1978)にもかかわらず、その後の大規模なプロスペクティブ研究やメタアナリシスからの証拠は、そのような催奇形性の影響はほとんどないことを示しています(Katzら. 1985; Resseguieら 1985; Raman-Wilmsら. 1995)。妊娠中のジドロゲステロン使用の最近のレビューでは先天性リスクの増加は認められていません(Queisser-Luftら、2009)。
これらの結果から、切迫流産の患者名には経腟プロゲステロン製剤の使用までは考えませんが、経口プロゲステロン製剤は流産を少し下げるか変わらないかどちらかで、副作用はほぼないので、患者名に委ねるというのが答えになるのでしょうか。流産の精神的ストレスに悩んでいる患者名と接する機会が多いので、今回の結果でも産科合併症を含む副次的転帰にも有意な差は認められなかったことからも考えると、少しでも流産を減らせる見込みがあるなら使用したいと私は思ってしまいます。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 総説、RCT、メタアナリシス

# プロゲステロン/プロゲスチン

# 流産、死産

# 不育症(RPL)

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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