治療予後・その他

2025.12.31

2025年を振り返って:妊活コラム創設初年

皆さま、こんにちは。亀田IVFクリニック幕張の川井です。 「生殖医療がよくなるように、自分にできることをする」 これが私の医師としてのモットーです。 そう言いつつも、サボる癖もありますし、遊びたいし、ゆっくり休みたいと思う日もあります。そんな葛藤の中で、今年もなんとか1年間、この妊活コラムを完遂することができました。まずは、そのことを素直に喜びたいと思います。

さて、昨今は生成AIが急速に普及し、誰もが膨大な「集合知」にアクセスできる時代になりました。そんな中で患者様が、「この医療機関が言っていることは本当に正しいの?」と疑問を持つことは、当然の権利です。 だからこそ、私たち医療者は日々知識をアップデートし続けなければなりません。そのための手段として、医療従事者自身も生成AIを「壁打ち相手」として活用し、知識の補完や整理を行っていく必要があります。 「生成AIは嘘をつく(ハルシネーション)」と批判されることもあります。しかし、それは人間も同じです。ヒトだって知らない部分を誤魔化すこともあれば、時には間違った回答をしてしまうことさえあります。 大切なのは、「目の前の患者様のための臨床医療」に生成AIを活用しながら、向き合い続けることだと思っています。 来年度もこの姿勢を崩さず、最新の知見を皆さまに還元していく所存です。 では、そんな私が今年一年、発信した300弱のテーマから、より取り上げたトピック3つ、印象に残っている論文10本をご紹介し、2025年の締めくくりとさせていただきます。

テーマ①:PGT-Aの解釈と可能性

約30本取り上げました。日本でもPGT-A(着床前胚異数性検査)が普及し、多くの患者様が検査を受けられるようになりました。しかし、今年は「正常か異常か」という二元論を超えた、より複雑で希望のあるデータが多く報告された年でもありました。

テーマ②:生活習慣(睡眠・食事・サプリメント)を見直す科学

約40本取り上げました。医療介入だけでなく、「患者様ご自身ができること」の科学的根拠も追求しました。流行の「痩せ薬」や身近な「サプリメント」についても、妊活中の視点から整理しました。

テーマ③:着床(母体因子)のブラックボックスを再考する

約70本取り上げています。良好な胚を戻しても妊娠に至らない「反復着床不全」や「不育症」。この厚い壁を乗り越えるために、今年は子宮内の「細菌叢(フローラ)」、「免疫」、「物理的な障壁(帝王切開子宮瘢痕症や子宮形態異常)」を中心に、主たる原因よりも踏み込んだ、これからエビデンスが確立していくであろう分野、かつ自身の理解がまだ十分でなかった分野を中心に取り上げました。

思い入れがある妊活コラム10本

①2025年1月6日 HRT周期凍結胚移植後の早期黄体補充中止でも生児獲得(当院報告:BMC Pregnancy Childbirth. 2024)
自施設の報告、妊娠ごく初期のHCG解釈をより注視するようになりました。

②2025年3月13日 高用量アスピリン療法は肥満患者の重症妊娠高血圧腎症予防に効果的か?(Am J Obstet Gynecol. 2025)
HDPアスピリンの予防投与をするかどうかより、いつからするか、用量をどうするかの議論に変わってきています。

③2025年3月29日 精液所見悪化が報告された医薬品のまとめ
小宮先生の記事、精液所見を眺めるだけの時代ではなく、ちゃんと問診票をみながら評価する時代になったと思っています。

④2025年4月17日 重症帝王切開子宮瘢痕発生率:二層式断続縫合 vs 二層式連続縫合(BMC Pregnancy Childbirth. 2025)
帝王切開の大事さを改めて考えさせられた報告。なによりも解析が詳細でした。

⑤2025年4月28日 子宮内細菌叢組成と不妊患者の生殖予後(Microbiome. 2022)
子宮内細菌叢を見直すきっかけとなった報告。今年一番何度も読み直した文献です。

⑥2025年6月16日 卵子質/量の年齢依存性変化を数理モデル化した研究(当院関連論文)
自施設8年間のデータをまとめた報告 思い入れがあります。

⑦2025年7月1日 NK細胞異常を有する反復妊娠不成立患者における免疫グロブリン・イントラリピッド比較研究(当院関連論文)
自施設不育症・反復着床不全に対する免疫治療をまとめた報告。根拠をもって説明できるようになりました。

⑧2025年8月20日 修正排卵周期凍結融解胚移植におけるトリガー時卵胞径と生殖医療成績(Hum Reprod Open. 2025)
排卵周期凍結融解胚移植の多様性を示した報告のひとつ。治療の柔軟性が上がりました。

⑨2025年10月29日 妊活における 痩せ薬(GLP-1受容体作動薬)(Fertil Steril. 2024)
BMI高値の人は妊娠してはいけないというのはひと昔の考え方です。どのように医療介入を検討していくか、知識をアップデートしなければなりません。

⑩2025年12月22日 PCOS女性の妊娠前・初期メトホルミンが妊娠転帰に与える影響(Am J Obstet Gynecol. 2025)
国内ではPCOS・原因性不妊で適応がありますが妊娠中禁忌となっているメトホルミン。患者様へ説明しやすい結果となっています。

2026年に向けて 私たち医療者は、膨大なデータの中から、目の前の患者様一人ひとりに最適な情報を正しく翻訳し、提案していく責任があります。 本年も当院のブログをお読みいただき、誠にありがとうございました。 どうぞ良いお年をお迎えください。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 子宮内細菌叢検査

# 生活習慣

# 着床前遺伝学的検査(PGT)

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

この記事をシェアする

治療予後・その他の人気記事

2025.12.31

2025年を振り返って:妊活コラム創設初年

2022.03.01

子宮動脈塞栓術(UAE)後の妊娠は危険?(Am J Obstet Gynecol. 2021)

自然妊娠と体外受精妊娠、どっちが流産多いの?

がん患者の妊孕性保存 ASCOガイドラインアップデート2025(J Clin Oncol. 2025)

妊娠前メトホルミンによる重症妊娠悪阻リスクの低下(Am J Obstet Gynecol. 2025)

妊娠高血圧腎症予防のアスピリン投与について(AJOG2023 Clinical Opinion)

今月の人気記事

胎児心拍が確認できてからの流産率は? 

2021.09.13

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

高年齢の不妊治療で注目されるPGT-A(2025年日本の細則改訂について)

2025.11.10

2025.12.31

2025年を振り返って:妊活コラム創設初年

2025.12.31

腟潤滑ゼリーは妊娠率に影響する?

2022.01.24