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2025.07.01

NK細胞異常を有する反復妊娠不成立患者における免疫ブロブリン・イントラリピッド比較研究(当院関連論文)

はじめに

当院では、兵庫医科大学との共同研究を行い反復妊娠不成立患者における免疫ブロブリン・イントラリピッド治療を行ってまいりました。保険適応にはなっておりませんので薬剤費ふくめて高い治療となりますが一定頻度で今まで救えなかった患者様をサポートできたと思っています。NK細胞異常を有する反復妊娠不成立患者における免疫ブロブリン・イントラリピッド比較研究を山谷先生・福井先生がまとめてくださいました。

ポイント

NK細胞異常を有する反復妊娠不成立患者において、イントラリピッドは免疫グロブリンと同等の治療効果を示し、より安価で入手しやすい治療選択肢となりえることがわかりました。

引用文献

Ayano Yamaya, et al. Reprod Med Biol. 2025 Jun 18;24(1):e12662.  doi: 10.1002/rmb2.12662.

論文内容

NK細胞異常に関連する不育症や反復着床不全患者に対する免疫グロブリンとイントラリピッド療法の効果を比較することを目的とした後方視的研究です。NK細胞異常は末梢血NK細胞活性40%以上、CD16+/CD56dim子宮NK細胞18%以上と定義しました。2018年4月から2024年4月の間に兵庫医科大学および亀田IVFクリニック幕張を受診した患者209名を対象としました。研究対象は、反復着床不全では良好胚質胚移植を3回実施しても妊娠しなかった患者、不育症では2回以上の流産歴を有する患者としました。除外基準として、未治療の血栓性疾患(抗リン脂質抗体症候群、プロテインS欠損症)、未治療の子宮形態異常、未治療の糖尿病・甲状腺機能異常、転座などの染色体異常、高Th1/Th2比の患者を除外しました。

結果

患者背景では、不育症群において免疫グロブリン治療群の平均年齢(37.0歳 vs 35.0歳、P<0.01)がイントラリピッド治療群より有意に高くなりましたが、その他の妊娠歴、分娩歴、流産歴、BMI、NK細胞異常の程度には有意差はありませんでした。
反復着床不全患者において生化学的妊娠を含む着床率は免疫グロブリン治療48.3%(14/29)、イントラリピッド治療群47.8%(32/67)、生児獲得率は免疫グロブリン治療50.9%(7/14)、イントラリピッド治療群53.1%(17/32)、染色体異常による流産と生化学的妊娠を除外した生児獲得率は、免疫グロブリン治療58.3%(7/12)、イントラリピッド治療群81.0%(17/21)、染色体正常流産のみを流産として扱った場合の生児獲得率は、免疫グロブリン治療87.5%(7/8)、イントラリピッド治療群94.4%(17/18)となり全てに関して有意差を認めませんでした
不育症患者において、継続妊娠を含む生児獲得率は免疫グロブリン治療67.7%(21/31)、イントラリピッド治療群61.0%(50/82)、染色体異常による流産と生化学的妊娠を除外した生児獲得率は、免疫グロブリン治療75.0%(21/28)、イントラリピッド治療群72.5%(50/69)、原因不明の染色体異常流産も除外した場合の生児獲得率は、免疫グロブリン治療100%(21/21)、イントラリピッド治療群84.7%(50/59)でした。
投与タイミング別の臨床妊娠率では、反復着床不全患者において胚移植前、胚移植当日、胚移植後の臨床妊娠率は、免疫グロブリン治療でそれぞれ47.6%(10/21)、0%(0/5)、0%(0/0)、イントラリピッド治療群で30.0%(15/50)、12.5%(1/8)、0%(0/3)でした。有意差はありませんでしたが、両治療とも胚移植前の投与でより高い臨床妊娠率が観察される傾向がありました。
NK細胞活性の変化では、妊娠後のNK細胞活性は両群で有意に低下しました。イントラリピッド治療群でより急速な低下を示し、免疫グロブリン治療では緩やかな低下でした。免疫グロブリン治療では投与4週間後にNK細胞活性が再上昇しましたが、再投与後に再び低下しました。両治療とも投与後にNK細胞活性の有意な抑制効果が認められました。

私見

作用機序の違いとして、イントラリピッド治療は長鎖多価不飽和脂肪酸(リノール酸、オレイン酸)がNK細胞のPPAR(ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体)、GPCR(Gタンパク質共役受容体)、CD1受容体に結合し、細胞内シグナル伝達を通じて遺伝子発現を調節し免疫活性を直接的に抑制します。一方、免疫グロブリン治療はFc受容体のブロック、サイトカイン調節、樹状細胞やT細胞機能への作用など、より間接的なメカニズムで免疫応答を調節します。本研究でイントラリピッド治療群がより急速なNK細胞活性低下を示したことは、受容体を介した直接的なシグナル伝達の速やかな作用を反映している可能性があります。
本研究の限界として対照群がないため、自然経過と比較した真の治療効果については今後のランダム化比較試験による検証が必要です。

#NK細胞異常  #反復着床不全 #不育症 #イントラリピッド  #免疫グロブリン

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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# 不育症(RPL)

# 免疫不妊・不育

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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