不育症

2026.02.24

妊娠高血圧腎症予防におけるアスピリン162mgと81mgの比較(Obstet Gynecol. 2026)

はじめに

妊娠高血圧腎症リスクがある女性に対して81mgのアスピリンが推奨されていますが、英国では150mgと高用量が推奨されています。低用量アスピリンは妊娠16週未満から開始することで妊娠高血圧症候群の予防に効果があるとされていますが、至適用量については一致した見解がありません。今回、高リスク妊婦における妊娠高血圧症候群予防のためのアスピリン162mg対81mgの有効性を比較した無作為化比較試験をご紹介します。

ポイント

妊娠高血圧腎症の高リスク妊婦において、妊娠16週未満からのアスピリン162mg投与は81mg投与と比較して、早期妊娠高血圧腎症または重症妊娠高血圧腎症の発生率に有意差を認めませんでした。

引用文献

Amrin Khander, et al. Obstet Gynecol. 2026 Jan;147(1):87-96. doi: 10.1097/AOG.0000000000006100.

論文内容

妊娠高血圧腎症の高リスク妊婦において、早期妊娠高血圧腎症(妊娠37週未満、重症の有無は問わない)または満期重症妊娠高血圧腎症の予防に対する、アスピリン162mg対81mgの有効性を比較することを目的とした実用的、無作為化、非盲検、盲検エンドポイント臨床試験です。妊娠高血圧腎症の高リスク妊婦を、妊娠16週未満からアスピリン162mgまたは81mgの1日1回投与に無作為に割り付け、分娩まで継続し、産後6週間までフォローアップしました。主要複合評価項目は早期妊娠高血圧腎症または満期妊娠高血圧腎症とし、治療群を盲検化された独立した研究者によって判定されました。副次評価項目は複合評価項目の各成分、治療への服薬遵守率、母体合併症(あらゆる妊娠高血圧症候群、妊娠高血圧、常位胎盤早期剝離、分娩様式、分娩時出血量、輸血回数、ICU入室、降圧薬の開始または増量、産褥高血圧)、新生児合併症(分娩時妊娠週数、出生体重、呼吸補助の必要性、新生児低血糖、NICU入院)としました。

結果

無作為化された400人の参加者のうち、365人に分娩データがあり、intention-to-treat解析に含まれました(162mg群184人、81mg群181人)。早期妊娠高血圧腎症または満期妊娠高血圧腎症の発生率は、162mg群で184人中26人(14.1%)、81mg群で181人中31人(17.1%)でした(RR 0.83、95%CI 0.51-1.33、P=0.4)。per protocol解析では、162mg群で21人、81mg群で34人が早期妊娠高血圧腎症または満期妊娠高血圧腎症を発症し(13.4%対18.7%、RR 0.94、95%CI 0.85-1.03、P=0.2)、intention-to-treat解析と同様の結果でした。早期妊娠高血圧腎症は162mg群で184人中18人(9.8%)、81mg群で181人中23人(12.7%)でした(RR 0.77、95%CI 0.43-1.38、P=0.38)。満期妊娠高血圧腎症は162mg群で184人中8人(4.3%)、81mg群で181人中8人(4.4%)でした(RR 0.98、95%CI 0.36-2.56、P=0.9)。服薬遵守率は、162mg群で88-91%、81mg群で89-92%でした。あらゆる妊娠高血圧症候群は162mg群で184人中38人(20.6%)、81mg群で181人中43人(23.7%)でした(RR 0.87、95%CI 0.59-1.28、P=0.5)。妊娠高血圧は162mg群で184人中36人(19.5%)、81mg群で181人中34人(18.7%)でした(RR 1.04、95%CI 0.68-1.59、P=0.9)。産褥高血圧は162mg群で184人中22人(11.9%)、81mg群で181人中23人(12.7%)でした(RR 0.94、95%CI 0.54-1.63、P=0.9)。常位胎盤早期剝離は162mg群で184人中8人(4.4%)認められましたが、81mg群では181人中0人でした(P=0.013)。
下記項目は有意差がありませんでしたが、出血関係の頻度などを列挙いたします。
ICU入室は162mg群で184人中5人(2.7%)、81mg群で181人中1人(0.6%)でした(RR 4.89、95%CI 0.58-41.45、P=0.2)。輸血は162mg群で184人中10人(5.4%)、81mg群で181人中14人(7.7%)でした(RR 0.70、95%CI 0.32-1.54、P=0.4)。単胎妊娠において、分娩時妊娠週数の中央値は162mg群で37.6週(36.7-38.7)、81mg群で38.1週(37.1-39.0)でした(P=0.025)。出生体重は162mg群で2,948g(2,546-3,290)、81mg群で3,205g(2,737-3,494)でした(P=0.005)。分娩時の定量的出血量の中央値は162mg群で651mL(348-821)、81mg群で500mL(297-869)でした(P=0.5)。産後出血(1,000mL以上)は162mg群161人中20人(12.4%)、81mg群147人中29人(19.7%)でした(P=0.13)。母体輸血は162mg群161人中8人(4.9%)、81mg群147人中7人(4.8%)でした(P=0.9)。
NICU入院、NICU入院期間、新生児呼吸補助、新生児低血糖は差がありませんでした。また、多胎妊娠においても、ほとんどの副次評価項目で両群間に有意差は認められませんでした。

私見

アスピリンの至適用量に関しては、これまでの研究でも一致した見解が得られていません。ASPRE試験では、150mgアスピリンがプラセボと比較して早期妊娠高血圧腎症を減少させることが示されました(OR 0.38、95%CI 0.2-0.74)(Rolnik DL, et al. N Engl J Med. 2017)。
用量検討に関しては下記が検証されています。
Ghesquiere L, et al. Am J Obstet Gynecol MFM. 2023のメタアナリシスでは、150-162mgが75-81mgと比較して早期妊娠高血圧腎症のRRが0.34(95%CI 0.15-0.79)と報告されています。しかし、スウェーデンの13,000人以上の妊娠を対象とした大規模後方視的コホート研究では、高用量(150-160mg)と低用量(75mg)の間に妊娠高血圧腎症全体または早産を伴う妊娠高血圧腎症の発生率に差は認められませんでした(Kupka E, et al. JAMA Netw Open. 2025)。
また、「高用量アスピリン療法は肥満患者の重症妊娠高血圧腎症予防に効果的か?(Am J Obstet Gynecol. 2025)https://wfc-mom.jp/blog/post_1489/ 」は主にBMI 30以上の高リスク肥満患者を対象とした研究(343名中220名が無作為化、209名で評価)で、ベイジアン分析を用いて「162mg/日は81mg/日と比較して重症妊娠高血圧腎症リスク低減に78%の確率で12%の減少効果がある可能性」という結果を示しています。
今回の報告との違いは、肥満に限定せず妊娠高血圧症候群の高リスク因子(慢性高血圧、妊娠高血圧症候群既往、糖尿病、自己免疫疾患、多胎妊娠、腎疾患)を持つ妊婦を対象とした点です。
本研究の重要な知見は、162mg群で常位胎盤早期剝離が8例発生したのに対し、81mg群では0例だった点です。Roberge S, et al. Am J Obstet Gynecol. 2018のメタアナリシスでは、100mg以上のアスピリンを16週以降に開始した場合、前置出血や常位胎盤早期剝離のリスク増加は統計学的に有意ではなかったと報告されています(OR 2.08、95%CI 0.86-5.06)。
患者背景の違いかもしれませんが、頭の片隅において診療にあたっていこうと思います。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# アスピリン、ヘパリン

# 妊娠高血圧症候群

# 不育症(RPL)

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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