体外受精

2024.10.07

胚培養温度(36.6℃ vs. 37.1℃)どっちがよい?(Hum Reprod. 2024)

はじめに

体外受精胚培養は37.0℃で行われていますが至適培養温度は未だ不明です。タイムラプスインキュベーターの出現により温度管理は大幅に改善されました。以前の前向き研究では、36.6℃で胚培養を行った場合と37.1℃で胚培養を行った場合で胚発生に影響しませんでしたが、37.1℃で胚培養を行った場合に胎児心拍陽性率が増加したという報告があったためランダム化比較試験で再検証した報告をご紹介いたします。 

ポイント

胚盤胞移植後の胎児心拍陽性率は、胚培養温度が36.6℃でも37.1℃でも変わりません。ある程度の温度耐用性が胚にはありそうです。 

引用文献

Koen Wouters, et al. Hum Reprod. 2024 Oct 1;39(10):2233-2239. doi: 10.1093/humrep/deae193. 

論文紹介

5日目単一胚移植に36.6℃で胚培養を行った場合と37.1℃で胚培養を行った場合とで臨床妊娠率に差はあるかどうか調査した報告です。2017年2月~2022年11月26日に前向きランダム化比較試験を実施しました。新鮮単一胚移植を受けた89/89例のサンプルサイズが、連続性補正を用いた両側z検定を用いて有意水準0.05で群間割合0.22の差(0.43-0.65)を検出する80%の検出力を達成するために必要でした。患者は卵子採取当日に6個の成熟卵子が存在した時点で無作為化が行われました。主要評価項目は妊娠7週目の胎児心拍陽性率であり、副次評価項目は受精率、胚盤胞発育、生化学的妊娠率、生児出生率、累積生児出生率としました。 

結果

304例の患者から234名(intention-to-treat)が無作為化され、181名(per-protocol)が5日目新鮮胚新鮮単一胚移植を実施しました。:90名が36.6℃で、91例が37.1℃で胚培養を行いました。患者平均年齢はそれぞれ32.4±3.5歳と32.5±4.2歳でした。36.6℃培養と37.1℃培養で、1周期あたりの胚発生成績に差は認められませんでした。12.0±3.8個 vs. 12.1±3.8個の卵子が回収され(P= 0.88)、10.0±3.1個 vs. 9.9±2.9個の成熟卵子であり(P= 0.68)、成熟率は84.2%(901/1083) vs. 83.5%(898/1104)でした。8.0±3.1個 vs. 7.9±2.7個が正常受精卵で、受精率はそれぞれ79.7%(720/901)vs. 80.5%(718/898)(P=0.96)でした。5日目および6日目に、1.5±1.7個 vs. 1.4±1.9個(P= 0.25)および1.1±1.1個 vs. 0.9±1.0個(P= 0.45)の胚盤胞発育凍結できました。受精卵1個あたりの利用率は46.1% vs. 41.5%でした(P= 0.14)。181名に対して5日目新鮮胚新鮮単一胚移植が行われ、生化学的妊娠率はそれぞれ72.2%(65/90)vs. 62.7%(57/91)でした(P= 0.17)。新鮮胚新鮮単一胚移植あたりの胎児心拍陽性率は51.1%(46/90)vs. 48.4%(44/91)でした[OR(95%CI)1.11(0.59-2.08)、P= 0.710]。現在までに、累積生児出生率はそれぞれ73.3%(66/90)vs. 67.0%(61/91)(P= 0.354)となっています。各群で生児出生していない7名の患者が胚盤胞凍結されています。intention-to-treat群の胎児心拍陽性率は、36.6℃で胚培養を行った場合と37.1℃で胚培養を行った場合で、それぞれ38.3% vs.  38.6%[OR(95%CI)0.98(0.56-1.73)、P= 0.967]でした。 

私見

卵胞の温度は35.0-36.0℃の範囲にあり(Grinstedら、1985)、卵管には温度勾配が存在するとされています(Hunter、2012)。 温度変化により、代謝速度の変化、制御タンパク質のコンフォメーションと遺伝子発現変化、分裂エラーへの影響、培養液のpH変化などが起こるとされています。 

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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