治療予後・その他

2025.01.16

子宮体がん初期の妊孕性温存治療についてのメタアナリシス(Am J Obstet Gynecol. 2024)

はじめに

子宮体がんの発症率は増加傾向にあり、特に若年層での増加が顕著です。この傾向は肥満の増加や出産年齢の高齢化などの要因が影響していると考えられます。標準治療は全子宮摘出術ですが、これは妊孕性消失につながります。若年で挙児希望のある患者さんにとって、ホルモン療法による妊孕性温存治療は重要な選択肢となっています。経口プロゲスチン療法とレボノルゲストレル放出子宮内システム(LNG-IUS)の12ヶ月完全寛解率、その後の妊娠率についてのメタアナリシスをご紹介いたします。

ポイント

早期子宮体がんに対する経口プロゲスチン療法とレボノルゲストレル放出子宮内システム(LNG-IUS)の12ヶ月完全寛解率はそれぞれ66%と86%でした。

引用文献

Suzuki Y, et al. Am J Obstet Gynecol. 2024. doi: 10.1016/j.ajog.2024.07.018

論文内容

生殖年齢の早期子宮体がん患者に対する2つの主要なプロゲスチン療法(経口プロゲスチンとレボノルゲストレル子宮内避妊システム)の治療成績を検討したシステマティックレビュー/メタアナリシスです。754名の生殖年齢子宮体がん女性のうち、490名が経口プロゲスチン、264名がLNG-IUSによる治療を受けました。

結果

12ヶ月以内の完全寛解率は経口プロゲスチン群で66%(95%CI: 55-76%)、LNG-IUS群で86%(95%CI: 69-95%)でした。Grade 1の症例に限定した場合、完全寛解率は経口プロゲスチン群で66%(95%CI: 54-77%)、LNG-IUS群で83%(95%CI: 50-96%)でした。異常値を示す研究を除外した後、プールされた完全寛解率は経口プロゲスチン群で66%(95% CI、57-73)、LNG-IUS群で89%(95% CI、75-96)となり、異質性が減少したことが示されました。妊娠率は経口プロゲスチン群で58%(95%CI: 37-76%)、LNG-IUS群で44%(95%CI: 6-90%)、生産率は経口プロゲスチン群で39%(95%CI: 23-57%)、LNG-IUS群で24%(95%CI: 2-84%)でした。

私見

NCCNガイドラインでの子宮体がんの妊孕性温存治療にLNG-IUSが推奨されていることを裏付ける結果かと思います。
妊娠率・生産率の評価ですが、LNG-IUS群の信頼区間が非常に広く、データの不確実性が高そうです。今後の国内での子宮体がん初期の妊孕性温存治療の動向をみながら寛解後の妊活に対して正しい情報提供をしていけたらと考えています。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当ブログ内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# がんと生殖医療

# 妊孕性温存

この記事をシェアする

あわせて読みたい記事

がん患者の妊孕性保存 ASCOガイドラインアップデート2025(J Clin Oncol. 2025)

2025.07.21

BRCA遺伝子変異と卵巣予備能(Fertil Steril. 2025)

2025.05.15

甲状腺がん治療が生殖補助医療成績に及ぼす影響(J Assist Reprod Genet. 2021)

2025.03.31

12歳以降のPOI女児に妊孕性温存目的卵子凍結は可能(J Assist Reprod Genet. 2023)

2023.11.24

凍結卵子廃棄の意思決定理由(J Assist Reprod Genet. 2023)

2023.10.20

治療予後・その他の人気記事

がん患者の妊孕性保存 ASCOガイドラインアップデート2025(J Clin Oncol. 2025)

凍結卵子を使用しない場合の対応に伴う意思決定(Fertil Steril. 2023) 

2023.05.26

妊娠高血圧腎症予防にアスピリンの使用方法は?(Am J Obstet Gynecol. 2023)

2023.08.10

妊娠糖尿病既往ぽっちゃり女性は減量が再発予防に効果的(Am J Obstet Gynecol. 2023)

自然妊娠・体外受精妊娠では、妊娠中の不安は同程度?(Hum Reprod. 2023)

2023.05.23

社会的卵子凍結の実施有無に対する後悔リスク(J Assist Reprod Genet. 2023)

今月の人気記事

年齢別:正倍数性胚盤胞3個以上を得るために必要な成熟凍結卵子数(Fertil Steril. 2025)

2025.10.06

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

肥満PCOS女性における単一正倍数性胚盤胞移植の妊娠転帰(Fertil Steril. 2025)

2025.10.01

子宮内膜厚と出生率の関連:米国SARTレジストリ研究(Fertil Steril. 2025)

2025.10.03

男性不妊症とExome sequencing (Eur Urol. 2025)

2025.10.04

ICSI周期における未熟卵割合と胚発生・出生率の関連(Hum Reprod. 2025)

2025.09.30