一般不妊

2025.01.27

卵管因子不妊を疑うリスク因子(当院関連報告:J. Clin. Med. 2025)

はじめに

卵管因子不妊は女性不妊の主要な原因の1つで、有病率は11%~30%とされています。クラミジアや淋菌などの性感染症、骨盤内手術歴、腹膜炎、子宮内膜症などが原因となります。しかし、骨盤内炎症や生殖器系疾患の既往がないからといって、卵管の状態が正常とは限りません。そのため、不妊治療の基本検査として卵管疎通性検査が広く行われています。今回、我々の施設での卵管性不妊リスクを調査しました。

ポイント

排便痛、クラミジアIgG陽性、子宮内膜症、子宮筋腫(粘膜下)を有する不妊患者では、卵管疎通性に異常がある割合が増加しました。

引用文献

Nako Y, et al. J. Clin. Med. 2025, 14, 179. doi:10.3390/jcm14010179

論文内容

2016年5月から2023年8月までに、不妊を主訴に来院しHSG検査を受けた3,322名の生殖年齢女性を対象としました。

結果

HSGでは2,764名が卵管疎通性あり、558名(16.8%)が非疎通性でした。非疎通性のうち、片側377名(11.3%)、両側181名(5.4%)でした。
– 卵管狭窄:右側148名(4.5%)、左側153名(4.6%)
– 卵管閉塞:右側181名(5.4%)、左側159名(5.4%)
– 卵管留水症:右側37名(1.2%)、左側58名(1.7%)

多変量解析の結果:

– 卵管非疎通性の危険因子:クラミジアIgG陽性(OR 1.57)、子宮内膜症(OR 1.64)、子宮筋腫(OR 1.58)
– 卵管閉塞の危険因子:クラミジアIgG陽性(OR 1.92)、子宮筋腫(OR 1.88)
– 卵管留水症の危険因子:排便痛(OR 2.79)、クラミジアIgA陽性(OR 2.09)、クラミジアIgG陽性(OR 2.07)、子宮内膜症(OR 3.11)

私見

HSGは比較的安価な検査ですが、85%の女性が検査中に痛みを感じます。また、今回の論文投稿で感じたのは、日本では放射線被曝の可能性もあるのに全例HSGをルーチンでやるのか???みたいなコメントが多くあったことです。放射線被曝といっても、胎児への影響は皆無な時期ではありますが、ルーチンでHSGという考えは一度とっぱらって、まずは自己妊活、そのうえで適宜HSGを追加していく、またHSGより超音波ガイド下卵管疎通性検査に移行していくのが海外のトレンドなのかと感じています。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当ブログ内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# クラミジア、性感染症

# 子宮内膜症

# 卵管疎通性検査、HSG

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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