体外受精

2025.03.17

新鮮胚移植は初期胚か胚盤胞か(Cochrane Database Syst Rev. 2022)

はじめに

胚培養技術の進歩により、体外受精において初期胚(分割期胚)移植から胚盤胞期胚移植へと移行する傾向が見られています。しかし、胚盤胞移植をするということは不良胚盤胞で止まってしまい初期胚に比べて、採卵あたりで考えると胚移植に到達できない可能性もあります。では、どれくらい生殖予後がよくなると説明するのがよいのでしょうか。コクランレビューで2016年に報告されたものが2022年にアップデートされていますのでご紹介いたします。

ポイント

胚盤胞期移植は初期胚移植と比較して、新鮮胚移植での出生率と臨床的妊娠率が高い可能性があります。

引用文献

Demián Glujovsky, et al. Cochrane Database Syst Rev. 2022 May 19;5(5):CD002118. doi: 10.1002/14651858.CD002118.pub6.

論文内容

ARTにおける胚盤胞期(5-6日目)胚移植と初期胚(2-3日目)胚移植の比較を目的としたシステマティックレビューです。
ARTを実施した32件のランダム化比較試験(5,821名)が分析されました。主要評価項目は新鮮胚移植後の出生率と、1回の採卵から得られた新鮮胚および凍結融解胚による累積臨床的妊娠率でした。

結果

新鮮胚移植後の出生率は、胚盤胞期移植群で高いことが示されました(OR 1.27、95%CI 1.06~1.51;I²=53%;15研究、2,219名の女性;エビデンスの質:低)。これは、初期胚移植で31%の女性が生児を獲得する場合、胚盤胞期移植では32~41%が生児を獲得することを示唆しています。
臨床的妊娠率も胚盤胞期移植群で高く(OR 1.25、95% CI 1.12~1.39;I²=51%;32研究、5,821名の女性;エビデンスの質:中)、初期胚移植で39%の女性が臨床的妊娠を達成する場合、胚盤胞期移植では42~47%が達成する可能性があります。
胚盤胞期移植が累積臨床的妊娠率を改善するかどうかは不確かであり、事後解析により、ガラス化法が累積臨床妊娠率を増加させる可能性が示唆されました。
多胎妊娠率(OR 1.05、95% CI 0.83~1.33;I²=30%;19研究、3,019名の女性;エビデンスの質:低)や、流産率(OR 1.12、95% CI 0.90~1.38;I²=24%;22研究、4,208名の女性;エビデンスの質:低)については、胚盤胞期移植の影響は不確かでした。しかし、移植胚数が同じサブグループにおけるバイアスリスクが低い研究のみを対象とした感度分析では、胚盤胞期移植は多胎妊娠率を増加させる可能性があることが示されました。
凍結胚率(後日移植のための余剰胚が凍結された場合)は胚盤胞期移植群で低く(OR 0.48、95% CI 0.40~0.57;I²=84%;14研究、2,292名の女性;エビデンスの質:低)、初期胚移植で60%の女性が胚を凍結する場合、胚盤胞期移植では37~46%が凍結する可能性があります。

私見

サブグループ解析結果をみてみましょう。

・初期胚で胚盤胞より多く胚移植した場合 OR 1.51、95% CI 1.03~2.22
・ともに単一移植の場合 OR 1.47、95% CI 0.98~2.20
・同じ数だけ移植した場合 OR 1.21、95% CI 0.99~1.47
・予後良好群 OR 1.28、95% CI 1.04~1.59
・予後不良群 OR 2.05、95% CI 0.53~7.96

どの群でも新鮮胚移植後の出生率は胚盤胞期移植群で高くなっています。胚移植回数で保険適応回数が決まっていますので適切な情報提供が必要となりますね。

文責:川井清考(WFC group CEO)

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