はじめに
女性の生殖関連の微生物叢が生殖および産科転帰に影響を与えることが示唆されています。腟内の細菌性腟症は流産・早産などの産科合併症と関連しており、子宮内の微生物環境も着床の成否に関わる可能性があります。本研究では、反復着床不全を経験した女性の腟内および子宮内細菌叢を網羅的に解析し、着床不全のバイオマーカーとなる特定の細菌群を同定しました。
ポイント
腟内と子宮内の両方において、不均衡な微生物叢(特定細菌増加とLactobacillus減少)が着床不全と関連し、腟内Lactobacillus割合が着床不全のバイオマーカーとなる可能性があります。
引用文献
Takuhiko Ichiyama, et al. Reprod Med Biol. 2021 May 31;20(3):334-344. doi: 10.1002/rmb2.12389.
論文内容
次世代シーケンシング(varinos社)を用いて腟内および子宮内細菌叢を包括的に分析し、着床不全のバイオマーカーとなる特定の細菌叢を同定することでした。
方法として、反復着床不全を経験した145名の女性と、着床不全の要因がなく健康で妊孕性が高いと考えられる21名のコントロール群を対象に、16S rRNA遺伝子シーケンシングを用いて腟内および子宮内細菌叢を調査し、着床不全を引き起こす特定の細菌を同定する比較を行いました。
16S rRNAの解析については、論文では具体的にV4超可変領域を読んでいます。この領域は、modified primer pair, 515f と 806rBを使用して増幅されています。Greengenesデータベース(バージョン13_8)と97%の配列一致に基づいてUCLUST法を使用したオープンリファレンスOTUピッキング戦略によってシーケンスをクラスター化しています。
結果
子宮内細菌叢は腟内細菌叢よりも高いα多様性を示しました(P < .001)。微生物叢プロファイルの分析から、反復着床不全患者の腟内サンプルには5種類、子宮内サンプルには14種類の細菌属がコントロール群よりも有意に高いレベルで存在していることが明らかになりました。反復着床不全患者の腟内Lactobacillus率はコントロール群と比較して有意に低く(76.4 ± 38.9% vs. 91.8 ± 22.7%、P = .018)、一方で子宮内のLactobacillus率は両群間で有意差はありませんでした(反復着床不全群:56.2 ± 36.4%、コントロール群:58.8 ± 37.0%、P = .79)。
私見
注目すべき点は、反復着床不全患者の腟内細菌叢においてLactobacillus割合が有意に低下していたことですが、子宮内細菌叢のLactobacillus割合には差がなかったという点です。
先行研究ではMorenoらが、子宮内細菌叢においてLactobacillus割合が90%以上の不妊患者はIVF後の妊娠予後が有意に良好であると報告していましたが、本研究ではコントロール群でさえも子宮内Lactobacillus割合が90%以上だったのは28.6%のみでした。このことから、子宮内Lactobacillus割合≧90%を着床不全のバイオマーカーとすることには再検討が必要かもしれません。
検査会社によって測定方法や結果の解釈が異なる可能性もあり、各社のリファレンス値に基づいた判断が必要です。
また、Atopobium、Megasphaera、Gardnerella、Prevotellaなどの細菌属が反復着床不全患者の腟内および子宮内で増加していたことも示されており、これらは細菌性腟症と関連のある病原菌とされています。
Burkholderiaは早産や卵管卵巣膿瘍との関連が報告されている細菌であり、本研究での子宮内における増加も注目に値します。
文責:川井清考(WFC group CEO)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのブログです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当ブログ内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。