はじめに
排卵周期凍結融解胚移植時には、卵胞モニタリング(超音波検査とホルモン採血)が一般的に行われています。排卵の時期を大まかに確認するだけであれば、免疫測定法(サンドイッチ法)を用いてLHサージをとらえるための検査補助ツールである尿中排卵検査キットを、排卵少し前から使用すれば問題ありません。
尿中LH濃度として20~50mIU/mLを検出感度とするものが多く、定性検査ですので、病院でのモニタリングに比べ信頼性が低いのではないかという不安があります。尿中排卵検査キットを用いたモニタリングと、病院での超音波検査を用いたモニタリングで凍結融解胚移植成績が変わるかどうかを調査した報告をご紹介いたします。
ポイント
尿中排卵検査キットを用いたモニタリングと、病院における超音波検査によるモニタリングで凍結融解胚移植成績に差がないことがわかりました。採血などを追加した場合の差については不明ですが、尿中排卵検査キットを用いたモニタリングは、患者様の負担を減らす一助となる可能性があります。
引用文献
Tjitske Zaat, et al. Lancet. 2023 Oct 14;402(10410):1347-1355. doi: 10.1016/S0140-6736(23)01312-0.
論文内容
尿中排卵検査キットを用いた在宅モニタリングと、病院での超音波検査を用いたモニタリングで凍結融解胚移植成績が変わるかどうかを調査した、オランダ23施設で行われた非盲検、多施設、無作為化、非劣性試験です。
18歳から44歳の規則的な排卵がある女性が、ウェブベースの無作為化プログラムにより、尿中排卵検査キットを用いた在宅モニタリング群と、病院での超音波検査によるモニタリング群に1:1で割り付けられました。すべての評価項目はIntention-to-treat解析とPer-protocol解析にて行われました。非劣性は90%信頼区間の下限が-4%以上と設定されました。
結果
1,464名の女性が2018年4月10日から2022年4月13日に無作為に割り付けられ、732名が在宅モニタリング群、732名が病院モニタリング群に割り付けられました。継続妊娠は在宅モニタリング群732周期中152周期(20.8%)、病院モニタリング群732周期中153周期(20.9%)に認められました(RR 0.99; 90%CI 0.81~1.22、RD -0.14; 90%CI -3.63~3.36)。Per-protocol解析でも非劣性が確認されました(在宅群725周期中152周期(21.0%)vs. 病院群727周期中153周期(21.0%)、RR 1.00; 90%CI 0.81~1.23、RD -0.08; 90%CI -3.60~3.44)。
私見
在宅モニタリング群では732名中7名が脱落し、病院モニタリング群では732名中5名が脱落しました。そのため、Intention-to-treat解析(732 vs. 732)とPer-protocol解析(725 vs. 727)の両方で解析されています。そのほか70~80名(約40名が排卵日を同定できず、約30名が受精胚移植に到達せず)が除外されていますが、排卵日を同定できない割合は在宅でも病院モニタリングでも差はなさそうです。今回の成績は、35歳前後の女性に対して胚移植あたりの継続妊娠率が25~30%で、両群に差はありませんでした。在宅モニタリングをうまく活用すれば、病院モニタリング回数を減らすことができ、さらにホルモン採血や黄体補充を追加することで成績改善も期待できそうです。
① 在宅モニタリングの方法
- 過去6ヶ月間の最も短い月経周期を参考に、使用法は説明書通り
- 1日2回の検査、検査4時間前の排尿なし
- 超音波検査なし、内分泌検査なし
- 内膜厚の基準なし、黄体補充なし
- LHが陽性にならなかった場合は超音波検査を実施し、発育卵胞があれば在宅モニタリングを再度開始
- LH検査陽性日(0日目)→day4受精胚なら5日目または6日目に移植
- LH検査陽性日(0日目)→day5/6受精胚なら6日目または7日目に移植
② 病院モニタリングの方法
- 経腟超音波による発育卵胞の評価
- 月経周期10~12日目から、発育卵胞16~20mmに達するまで2~4日間隔で継続
- 16~20mmに達した段階でhCG投与
- 内分泌検査なし
- 内膜厚の基準なし、黄体補充なし
- トリガー当日(0日目)→day4受精胚なら6日目に移植
- トリガー当日(0日目)→day5/6受精胚なら7日目に移植
文責:川井清考(WFC group CEO)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。