はじめに
不妊治療における排卵誘発剤により卵巣が刺激されることによって、卵巣が腫れ、腹水や胸水が発生するなどの症状が起こることを卵巣過剰刺激症候群(OHSS)と呼びます。OHSS の初発症状は、腹部膨満感、下腹部痛、体重増加などがあります。入院まで至るケースはそこまで多くないですが、高次医療機関での管理を考慮する基準として、腹部膨満感、嘔気・嘔吐、基準上腹部に及ぶ腹水、卵巣最大径 ≥ 8 cm、血算・生化学検査増悪傾向、妊娠している場合などがあげられます。また、入院管理を考慮する基準として腹部膨満感、嘔気・嘔吐、腹痛、呼吸困難、腹部緊満を伴う場合、腹部全体の腹水、あるいは胸水を伴う場合、卵巣腫大 ≥12 cm、Ht ≥45%、WBC ≥15,000/mm3、TP < 6.0 g/dl または Alb < 3.5 g/dlなどが挙げられます。
血中d-dimerは血栓症同定などの指標に使用されることが多いですが、OHSS時期にどのように動態が変動するかどうかはわかっていません。こちらについて調査した報告をご紹介いたします。
ポイント
OHSS患者における血中d-dimer値の上昇は必ずしも血栓症の存在を示すものではないことがわかりました。
引用文献
Shiori Kumazawa, et al. Reprod Med Biol. 2024. doi: 10.1002/rmb2.12563
論文内容
OHSSにおける血中Dダイマーの動態に影響を及ぼす因子を明らかにすることを目的としたケースコントロール研究です。
2013年1月から2023年6月までに入院したOHSS患者10例を解析対象とし、2施設カルテからレトロスペクティブにデータを抽出しました。入院中の血中d-dimer値を関連因子と比較分析しました。
結果
全患者において、OHSSから回復し体重が減少すると血中d-dimer値は上昇しました。どの患者も血栓症の臨床症状を示さず、10名中8名で画像検査により血栓がないことを確認しました。2名はCART実施し、処置後に血中d-dimer値が上昇しました。
私見
着目点が面白いですね。OHSS回復期に血中d-dimer値が上昇するのは、腹水中にプールされたd-dimerが血管内に再灌流することによって起こることが多く、血栓症の存在を反映するものではないという着目点です。
Limitationに症例数も少ないこと、腹水内d-dimer値の測定をおこなっていないことなど記載されていますが、面白い着目点だと思います。OHSSのおける血中d-dimerをどのように評価するか、低いから安心なのかもふくめて評価していく必要があるのかもしれません。
文責:川井清考(WFC group CEO)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。