体外受精

2024.05.09

非男性因子不妊症に対する受精方法による成績差(Fertil Steril. 2024)

はじめに

非男性因子不妊症に顕微授精を行うことはメリットかデメリットかという議論は絶えず行われています。現在の流れとして、女性年齢が高くても、卵子数が少なくても非男性因子不妊症に対して顕微授精を追加することが決して成績向上につながらないという考え方が主流です。アメリカ生殖医学会におけるビッグデータでみた受精方法の違いによる生殖医療結果をご紹介いたします。 

ポイント

非男性因子不妊症に対しての受精方法(媒精 vs. 顕微授精)による成績の違いは大きくなさそうです。 

引用文献

Jessica N Tozour, et al.  Fertil Steril. 2024 May;121(5):799-805. doi: 10.1016/j.fertnstert.2023.12.041. 

論文内容

着床前検査(PGT)の妊娠転帰に関して、非男性因子不妊症に対する媒精(IVF)よりも顕微授精(ICSI)による受精方法が有益であるかどうかを評価することを目的とした2014年1月から2017年12月までのSARTデータベースを用いたレトロスペクティブコホート研究です。 
主要評価項目は移植に適した胚の割合と生児出生率としました。副次評価項目として、35歳以上と35歳未満、採卵卵子数6個未満と6個以上、原因不明不妊症患者の周期における移植に適した胚割合のサブグループ解析を行いました。さらに、媒精と顕微授精の間の分娩週数と出生体重を評価しました。 

結果

30,446件のPGT周期が評価され、そのうち4,867件が媒精、25,579件が顕微授精でした。除外基準を設定し、必要な交絡変数について調整した結果、媒精と顕微授精の治療周期間で移植に適した胚に有意差は認められず、それぞれ41.6%(40.6%、42.6%)、42.5%(42.0%、42.9%)、生児出生率ではそれぞれ50.1%(37.8%、62.4%)、50.8%(38.5%、62.9%)でした。 
さらに、35歳以上(35.7% vs. 36.5%、P=.25)、35歳未満(57.6% vs. 58.6%、P=.21)、採卵数6個未満(32.9% vs. 35.3%、P=.12)、採卵数6個以上(43.9% vs. 44.2%、P=.66)、原因不明不妊(46.4% vs. 48.8%、P=.09)でした。 

初回凍結融解胚移植の流産率、出生率、分娩週数、出生体重にも差を認めませんでした。 

私見

非男性因子不妊症に顕微授精を行うと、無駄に卵子に傷害を与えてしまうのではないかという考え方が以前からあります。顕微授精は媒精に比べて高度な治療だよという一辺倒な方針ではなく、症例によって意思決定をすすめていくことが大事だと思います。 

Tannus S, et al. Hum Reprod. 2017; 32: 119-124 
Rosen M.P., et al. Fertil Steril. 2006; 85: 1736-1743 
Palermo G.D., et al. Hum Reprod. 1996; 11: 172-176 

SARTは研究を行う目的でSART-CORSデータシステムを作成していて、2019年には米国の81%のクリニックがSARTメンバーであり、米国における体外受精の全体外受精周期の90%を占めるとされています。SARTメンバーの一部のクリニックは成績のアルゴリズムに従い、訪問・カルテレビューを受け入れています。 

国内で考えると日産婦のARTレジストリとJISARTの中間のような存在なのでしょうか。国内データベースも素晴らしいものですが、もう少しクリニック間比較がビッグデータからなされていければ国内成績向上に寄与する気もします。 

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 顕微授精(ICSI)

# 媒精(IVF)

この記事をシェアする

あわせて読みたい記事

1PN由来胚の臨床的価値の再評価(J Assist Reprod Genet. 2025)

2025.09.15

男性不妊がない患者におけるIVF vs ICSI:無作為化試験(Nat Med. 2025)

2025.06.06

受精卵・胚の形態評価に関する改訂ESHRE/ALPHAコンセンサス(Hum Reprod. 2025)

2025.05.23

自然周期採卵における採卵時適正卵胞サイズ(Frontiers in Endocrinology. 2022)

2025.03.25

0PN由来胚の発育/妊娠転帰(J Assist Reprod Genet. 2025)

2025.03.05

体外受精の人気記事

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

PGT-Aによる体外受精での出産までの期間への影響(Fertil Steril. 2025)

レスベラトロールにおける生殖機能への影響

day5-8に生検された胚盤胞のeuploidy率と生殖成績:多施設共同研究(J Assist Reprod Genet. 2025)

反復ガラス化凍結と反復TE生検が胚盤胞移植成績に与える影響(J Assist Reprod Genet. 2025)

単一胚盤胞移植後の品胎妊娠―発生頻度と発生機序について(J Assist Reprod Genet. 2025)

今月の人気記事

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

2025.09.02

挙児希望男性の初回精液検査・精子DNA断片化率・精液酸化還元電位の異常頻度(日本受精着床学会雑誌. 2024)

2025.09.02

2025.09.03

レトロゾール周期人工授精における排卵誘発時至適卵胞サイズ(Fertil Steril. 2025)

2025.09.03

男性不妊と女性不妊におけるART妊娠の周産期予後の違い(Fertil Steril. 2025)

2025.09.08

PGT-Aによる体外受精での出産までの期間への影響(Fertil Steril. 2025)

2025.09.09

レスベラトロールにおける生殖機能への影響

2024.10.15