
はじめに
性感染症既往は慢性炎症の潜在的な要因となる可能性があります。クラミジア・トラコマチスは、無症状のため、しばしば発見・治療が遅れる性感染症です。血清学的研究では、人口の20~35%が生涯にわたってクラミジア抗体に曝露されているとされています。今回、プレコンセプション時期のクラミジア血清陽性が妊娠転帰に及ぼす影響を調査した前向きコホート研究をご紹介いたします。
ポイント
流産歴のある女性において、プレコンセプション時期のクラミジア・トラコマチス血清陽性は流産リスクを増加させ、生児出生率を低下させる可能性があります。
引用文献
Yajnaseni Chakraborti, et al. Fertil Steril. 2025 Jun;123(6):1072-1081. doi: 10.1016/j.fertnstert.2024.12.017.
論文内容
妊娠前のクラミジア・トラコマチス血清陽性が妊孕性、生児出生、流産に及ぼす影響を研究し、低用量アスピリン療法(81mg/日)が生児出生と流産に与える効果を評価することを目的とした妊娠前コホート研究です。Effects of Aspirin in Gestation and Reproduction(EAGeR)研究の無作為化プラセボ対照試験のデータと検体を用いて実施されました。妊孕性があり、1~2回の流産歴を有する1228名の女性を対象としました。妊娠前のクラミジア・トラコマチス血清陽性は、ベースライン時に合成ペプチドアッセイベースの酵素結合免疫吸着測定法を用いて測定されました。妊娠までの時間(妊孕性)は、β-hCGで検出された妊娠までの月経周期数として定義し、生児出産状態はカルテ抽出により決定され、流産は陽性β-hCG検査後の流産として定義しました。
結果
患者背景を調整した後、クラミジア・トラコマチス血清陽性(n=134/1228、11%)は、生児出生可能性の低下(RR:0.77、95%CI:0.59、0.99)および流産リスクの増加(RR:1.16、95%CI:1.04、1.29)と関連していましたが、妊孕性とは関連していませんでした(妊孕性オッズ比:0.92、95%CI:0.71、1.20)。CRPが1.95以上10mg/L以下で示される慢性炎症を有するクラミジア・トラコマチス血清陽性女性のサブセット(50/134、37.3%)において、低用量アスピリン療法は生児出産率を改善し(RR:1.68、95%CI:0.96、2.92)、流産リスクを低下させました(RR:0.83、95%CI:0.65、1.10)。
私見
クラミジア・トラコマチス既往感染が妊孕性に影響を与えるという報告はありましたが、今回の報告では妊孕性は変化せず流産リスクだけ変わりました。クラミジア感染による上部生殖器の組織損傷や慢性炎症が、脱落膜形成、着床、胎盤形成を阻害し、妊娠維持に悪影響を及ぼすメカニズムが示唆されています。特に興味深いのは、CRPで示される慢性炎症を有するクラミジア血清陽性女性において、低用量アスピリン療法が妊娠転帰を改善する可能性を示した点です。これは抗炎症作用による効果と考えられますが、CRPが本当にクラミジアで上昇しているのか、つまり「クラミジア上昇に伴うCRP上昇→アスピリンによる流産率低下」はまだまだイメージが湧かず、今後の追試をフォローしていきたいと思います。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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