プレコンセプションケア

2025.07.09

妊娠前体重減少が妊娠中血管機能や血管内皮に与える影響(F S Rep. 2025) 

はじめに

妊娠中肥満女性は妊娠高血圧症候群のリスクが高く、この疾患は後の心疾患とも関連しています。小粒子高密度低密度リポタンパク質コレステロール(sdLDL-C)粒子や非対称ジメチルアルギニン(ADMA)などのバイオマーカーは、これらの疾患の発症に関与することが知られています。肥満成人には心血管疾患リスク低減のため体重減少が推奨されており、これらのバイオマーカーが臨床的に追跡されています。妊娠前の体重減少が妊娠高血圧症候群リスクを軽減することは知られていますが、妊娠前の体重減少が妊娠中のこれらのバイオマーカーに与える影響についてはほとんど知られていません。 

ポイント

妊娠前の体重減少は、妊娠中のアテローム性アポリポタンパク質脂質レベルの低下と血管機能の改善に関連していました。 

引用文献

Wild RA, et al. F S Rep. 2025;6:185–92. doi: 10.1016/j.xfre.2025.02.009 

論文内容

妊娠前の体重減少後のアテローム性アポリポタンパク質脂質と血管機能マーカーを妊娠中に評価することを目的とした後向きコホート研究です。体重減少コホートには妊娠前に体重減少を達成した妊娠女性を含み、体重増加コホートには妊娠前に体重増加した女性を含みました。すべての患者は原因不明不妊症の肥満女性に対する「生活習慣修正による妊娠前治療による生殖能力改善」無作為化臨床試験に参加後に妊娠し、妊娠36週以降に単胎の生児を出産しました。 

結果  

妊娠前の体重減少は、妊娠中のアテローム性アポリポタンパク質脂質レベルの低下と血管機能のより良い指標と関連していました。体重減少コホートでは、平均2.7kg(95%CI 2.9-2.4)の体重減少を達成し、体重増加コホートでは平均1.3kg(95%CI 0.8-1.8)の体重増加がありました。妊娠中sdLDL-Cレベルの平均差は、体重減少群で8mg/dL(15%)低く、32週時点では10mg/dL低い値でした。極小LDL-C粒子「a」は4.0mg/dL(16%)低く、「b」は5mg/dL(14%)低く、「c」は4mg/dL(10%)低い値を示しました。アテローム性粒子レベルとADMAレベルの相関は、妊娠前に体重減少しなかった群でのみ認められました。

私見

従来から妊娠高血圧症候群の予防における体重管理の重要性は指摘されていましたが、具体的なバイオマーカーレベルでの変化を追跡した研究は限られていましたので、現在のFMF 

ベイズモデルのように妊娠高血圧症候群のリスクマーカーになりえたら面白いなと思っています。特に注目すべきは、妊娠前の体重減少により、妊娠中のアテローム性脂質粒子レベルが持続的に低下することが示された点です。これらの粒子は血管内皮機能に直接影響を与え、一酸化窒素産生を阻害することで血管機能不全を引き起こす可能性があります。本研究では、体重減少群においてこれらの悪影響が軽減されることが示されており、妊娠前のプレコンセプションケアとしての体重管理の重要性を科学的に裏付けています。 

文責:川井清考(WFC group CEO) 

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 妊娠高血圧症候群

# 体重、BMI

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