
はじめに
母体BMIと生殖機能との関係は卵巣機能、卵子の質、子宮内膜機能不全といった観点から多くの研究が行われていますが、現在のところ子宮内膜機能不全が一番影響を受けているのではないか?というのが様々な論文を読んでいて感じる印象です。
BMI論文を読む際に、日本人女性は欧米人と比較してBMIが低い傾向にあり、低BMIの影響についての報告は限られています。今回、国内クリニックにおける大規模データを用いて、BMIをWHO基準に基づき5群により細分化した検討をご紹介いたします。
ポイント
比較的低BMIに分布する日本人女性BMIでは体外受精治療成績に大きな影響を与えませんでした。
引用文献
Kidera N, et al. Sci Rep. 2023;13:14817. doi: 10.1038/s41598-023-41780-4
論文内容
2016年1月から2020年12月の間に実施された14,605周期の採卵周期と7,122周期の最高グレード胚(ガードナー分類 ≥3AA)を用いた凍結融解胚移植を対象とした後向き研究です。BMIは採卵前および胚移植に体重を実測し、問診票による身長と合わせて算出されました。BMIを5群(<18.5、18.5-20.0、20.0-22.5、22.5-25.0、≧25.0 kg/m²)に分類し、正常受精率、高グレード胚盤胞率(≥3BB)、臨床的妊娠率、流産率、生児出生率を比較しました。
採卵周期のBMI分布は、18.5未満が2,039周期(14.0%)、18.5-20.0が3,654周期(25.0%)、20.0-22.5が5,235周期(35.8%)、22.5-25.0が2,476周期(17.0%)、25.0以上が1,201周期(8.2%)でした。凍結融解胚移植では、18.5未満が1,154周期(16.2%)、18.5-20.0が1,852周期(26.0%)、20.0-22.5が2,645周期(37.1%)、22.5-25.0が1,092周期(15.3%)、25.0以上が379周期(5.3%)でした。
結果
多重回帰分析により、正常受精率と高グレード胚盤胞率において、BMI群間で統計学的有意差は認められませんでした。体外受精では男性因子不妊のみが正常受精率と関連し、顕微授精では母体年齢、初回周期、分娩歴が正常受精率と関連していました。高グレード胚盤胞率については、母体年齢と初回周期が両方法で関連因子でした。
凍結融解胚移植においては、単変量解析でBMI 25以上群の臨床的妊娠率が低く(47.2% vs 52.8-56.4%、P=0.014)、生児出生率においてもBMI 18.5未満群で高く(44.2%)、BMI 25以上群で低い(32.8%)結果でした(P=0.001)。しかし、傾向スコアマッチング後の解析では、臨床的妊娠率(P=0.313)、流産率(P=0.268)、生児出生率(P=0.578)のいずれにおいてもBMI群間で有意差は認められませんでした。
私見
本研究は従来の報告とは異なり、BMIが体外受精治療成績に影響をあたえない結果となりました。日本人女性の約40%が正常BMI範囲(20.0-22.5)に分布し、肥満(≥25)は5-8%程度と欧米に比べて少ないことです。
日本人女性BMI分布が低BMIだから差がつかなかったのか、それとも、人種差、治療プロトコールの違い、凍結融解胚移植という方法論の特性、または最高グレード胚(≥3AA)のみを対象とした解析手法の違いが影響しているのかは面白いテーマだと思いました。
肥満は妊娠高血圧症候群や妊娠糖尿病などの合併症リスクとなるため体重指導は重要ですが、ちょっと太っている/痩せている程度であれば、不妊治療開始を遅らせるべきではないということは明白だと思います。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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