
はじめに
BMI 25kg/m²以上の女性では自然妊娠が困難になるとともに、流産、早産、妊娠糖尿病、妊娠高血圧症候群などの妊娠合併症のリスクが高まります。多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)を合併した肥満女性では減量により排卵改善・妊娠率が改善することが報告されていますが、PCOS状態に関係なく一般的な肥満・過体重女性集団における減量の妊娠への効果に関するエビデンスは不足していました。
ポイント
肥満・過体重女性において、10-25%の減量は安定体重維持と比較して妊娠機会を5.2%増加させることが示されました。
引用文献
Maximiliane Lara Verfürden, et al. Hum Reprod. 2025. doi: 10.1093/humrep/deaf122.
論文内容
BMI 25kg/m²以上の女性において、10-25%の減量が安定体重維持と比較して妊孕性を増加させるかを検討することを目的とした大規模コホート研究です。2000年1月から2022年5月の間に英国のプライマリケア診療記録と病院記録を連結したデータベースから、18-40歳でBMI 25kg/m²以上の女性246,670名を対象として、2年間のベースライン期間における体重変化に基づいて安定体重群(体重変化3%未満、195,666名)と減量群(10-25%減量、51,004名)に分類し、3年間の追跡期間中の妊娠発生を評価しました。
結果
全体で22,756人(9.2%)に妊娠が発生しました。10-25%の減量(中央値14%)を達成した女性では、安定体重維持群と比較して3年間の妊娠機会が5.2%増加しました(HR 1.05; 95%CI 1.02-1.09; P=0.003)。この効果はベースラインBMIが高い女性ほど顕著で、BMI 45kg/m²の女性では14%の減量により妊娠機会が23%増加しました(ハザード比1.23; 95%CI 1.14-1.33; P<0.001)。妊娠糖尿病は950名(8.0%)に発生し、減量により42%のリスク減少を認めました(OR 0.58; 95%CI 0.48-0.70; P<0.001)。緊急帝王切開は1,453名(12.6%)に実施され、減量群で減少を示しました(OR 0.82; 95%CI 0.71-0.95; P=0.008)。妊娠高血圧症候群(244人名、2.1%)および巨大児(791名、9.9%)については、減量による有意でない減少傾向が観察されました。流産、早産、生児出生、低出生体重児の発生率は減量による影響を受けませんでした。
私見
肥満・過体重女性の一般集団における減量の妊孕性への効果を示した初めての大規模研究として重要な意義を持ちます。従来の研究が主に不妊治療を受ける特定の集団やPCOS患者に限定されていたのに対し、本研究は妊娠希望が不明な一般集団を対象としており、より実臨床に即した知見を提供しています。特に、ベースラインBMIが高いほど減量による妊娠機会の改善効果が大きいという結果は、重度肥満女性への積極的な減量指導の根拠となります。妊娠糖尿病や緊急帝王切開リスクの有意な減少も、母児の健康改善につながる重要な知見です。
今回の研究の追跡方法ですが、対象女性を2年間のベースライン期間で体重変化により分類後、最大3年間追跡しました。追跡期間中の最初の妊娠記録をプライマリアウトカムとし、妊娠発生、避妊薬処方、患者転院、追跡期間終了のいずれか最も早い時点で記録を打ち切りました。Cox比例ハザードモデルを用いて統計解析を行い、減量群で5.2%の妊娠機会増加を確認しました。なお、追跡期間の中央値は安定体重群で191日、減量群で166日でした。女性年齢は28-30歳。この論文のFigはとても患者様に説明するうえで参考にしやすい指標だと思います。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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