
はじめに
生殖補助医療(ART)により妊娠した妊娠は、プロトコル間で周産期転帰に差があることが報告されています。特に、新鮮胚移植と凍結融解胚移植、排卵周期凍結融解胚移植とホルモン補充周期凍結融解胚移植では妊娠高血圧症候群をはじめとする合併症率が異なるとされていて、黄体の妊娠初期に伴う重要性が議論されています。着床期における黄体数が、母体妊娠・出産予後に与える影響について検討した報告をご紹介します。
ポイント
黄体数は母体妊娠・出産予後と関連し、胎児性別による修飾効果が認められ、最適なART プロトコルの選択に重要な知見を提供します。
引用文献
Joni J Koerts, et al. Fertil Steril. 2025 Jun;123(6):1039-1050. doi: 10.1016/j.fertnstert.2024.12.002.
論文内容
生殖補助医療(ART)の着床時期黄体数と母体妊娠・出産予後との関連を調査することを目的としたオランダ・ロッテルダムのエラスムス大学医療センターにおける継続中の前向きコホートであるロッテルダム周産期コホートに組み込まれた観察研究として実施されました。単胎妊娠で黄体に関するデータがある女性1861名を対象とし、0個の黄体(HRT周期凍結胚移植、n=72)、>1個の黄体(卵巣刺激新鮮胚移植、n=462)、1個の黄体(排卵周期凍結胚移植および自然妊娠、n=1327)の3群に分類しました。
結果
1個の黄体群(自然妊娠および自然周期凍結胚移植)と比較して、黄体0個妊娠では妊娠糖尿病のリスクが高く(aOR:2.59 [95%CI:1.31-5.15])、妊娠高血圧症候群リスクも高い傾向にありましたが(aOR:2.02 [95%CI:0.91-4.51])、統計学的有意差は認められませんでした。
複数黄体妊娠と比較すると、妊娠高血圧症候群のリスクは有意に低くなりました(aOR:0.36 [95%CI:0.18-0.72])。事後解析では、男児において複数黄体は出生体重パーセンタイルの低下と関連していました(ab:-6.18 [95%CI:-11.16- -1.20])。対照的に、女児では複数黄体との関連は認められませんでしたが、黄体0個は出生体重パーセンタイルの増加と関連していました(ab:12.93 [95%信頼区間:2.52-23.34])。
私見
黄体は妊娠初期の主要な生殖ホルモン(エストロゲン、プロゲステロン、リラキシン、バソプレッシン、プロレニンなど)を産生します。これらのホルモンは胎盤形成や母体の心血管・腎適応に不可欠であり、黄体数の異常はこれらの生理的適応に影響を与える可能性があります。
過去の報告と見比べていると、妊娠高血圧症候群、妊娠糖尿病は黄体との関連性強そうですが、出生体重は議論が分かれるところのようです。
妊娠高血圧症候群: 黄体欠如での発症率増加は既存文献と一致しているが、複数黄体の保護効果を具体的に示した研究は少ないです。
妊娠糖尿病: 過去の報告は相反する結果が混在しているが、大部分は黄体欠如で発症率が高いことを支持しています。
出生体重: 複数黄体での低出生体重は一貫して報告されているが、黄体欠如の影響は議論が分かれており、特に胎児性別による修飾効果についての文献は乏しくなっています。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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