
はじめに
高齢などのよる自身卵子での治療が困難な場合、ドナー卵子による治療が注目されています。今回、40歳以上の女性におけるドナー卵子治療の妊娠転帰を詳細に検討した大規模研究をご紹介いたします。
ポイント
ドナー卵子を使用しても、母体年齢上昇は生児出生率低下と出生体重減少に影響することが明らかになりました。
引用文献
Riwa Sabbagh, et al. Hum Reprod. 2025 Jul 1;40(7):1325-1331. doi: 10.1093/humrep/deaf044.
論文内容
40歳以上の患者におけるドナー卵子を用いたART治療転帰が患者年齢によって異なるかを検討することを目的とした後向きコホート研究です。2015年1月から2021年12月に、ドナー卵子による単一胚移植を受けた40歳以上の患者1,660周期を対象とし、40-44歳群、45-49歳群、50歳以上群の3群に分けて比較検討しました。
結果
40-44歳群969周期、45-49歳群607周期、50歳以上群84周期が解析対象となりました。患者背景については、BMIは各群で同様でしたが(平均26.69±6.01)、男性パートナー年齢は患者年齢に比例して上昇していました(40-44歳群:42.21±6.35歳、45-49歳群:44.12±8.74歳、50歳以上群:48.11±9.52歳、P<0.001)。ドナー卵子の95%が凍結卵子で、新鮮卵子は5%のみでした(P=0.024)。胚移植周期の89%がHRT周期で、11%が排卵周期でした(P=0.029)。
妊娠転帰において、生児出生率は45-49歳群で40-44歳群と比較して有意に低下していました(単変量解析:OR 0.78、95%CI 0.63-0.97、P=0.023)。この関係は、BMI、男性パートナー年齢、周期の種類、提供卵子の種類(新鮮vs凍結)で調整後も持続しました(多変量解析:OR 0.76、95%CI 0.61-0.95、P=0.016)。50歳以上群でも生児出生率は低下する傾向にありましたが、症例数が少ないため統計学的有意差は認められませんでした(OR 0.66、95%CI 0.40-1.07、P=0.094)。生化学的妊娠率については、45-49歳群(OR 1.09、P=0.6)および50歳以上群(OR 0.92、P=0.8)ともに40-44歳群と有意差は認められませんでした。流産率についても同様に群間差は認められませんでした(45-49歳群:OR 1.15、P=0.4、50歳以上群:OR 0.83、P=0.7)。
周産期転帰については、単胎妊娠702例(40-44歳群438例、45-49歳群235例、50歳以上群29例)を解析対象としました。出生体重は年齢の上昇とともに有意に低下し、40-44歳群で3257±612g、45-49歳群で3210±557g、50歳以上群で2903±613gでした(P=0.004)。正期産率は40-44歳群86%、45-49歳群83%、50歳以上群76%で、早産率はそれぞれ14%、17%、24%でしたが、統計学的有意差は認められませんでした(P=0.23)。分娩様式については経腟分娩率が各群で31%、29%、28%と差はありませんでした(P=0.68)。
私見
年齢による影響を認めなかった報告として、Abdalla HI, et al. Hum Reprod. 1993およびAbdalla HI, et al. Hum Reprod. 1997は臨床妊娠率、着床率、流産率、生児出生率において40歳以上の患者と若年患者間で差を認めませんでした。同様にSauer MV. Maturitas. 1998、Cano F, et al. Fertil Steril. 1995も年齢による影響を否定的に報告しています。
一方で、年齢による悪影響を示した報告もあり、Borini A, et al. Fertil Steril. 1996は臨床妊娠率の低下を、Flamigni C, et al. Hum Reprod. 1993は着床率の低下を、Yaron Y, et al. Hum Reprod. 1998は生児獲得率の低下を報告しています。
これらの矛盾する結果は、多くの研究が1990年代に実施され、症例数が限定的であったことに起因する可能性があります。
最近、卵子凍結技術、周産期管理の向上によりドナー卵子を用いた治療結果を再考する報告が続いています。生児出生率の低下、周産期合併症の増加は少なからず認められそうです。
Robert Stan Williams, et al. Fertil Steril. 2022. Feb;117(2):339-348. doi: 10.1016/j.fertnstert.2021.10.006.
Ta-Sheng Chen, et al. Reprod Biomed Online 2024. doi: 10.1016/j.rbmo.2024.104291
文責:川井清考(WFC group CEO)
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