
はじめに
反復着床不全(RIF)の原因は多因子で、胚質、子宮内膜着床能、母体免疫系/凝固系、子宮形態異常などが関与します。以前より、子宮内hCG注入療法がRIF治療の有望な選択肢として注目されており、特に他のRIF治療より経済的メリットが大きいため期待されています。こちらのメタアナリシスをご紹介いたします。
ポイント
子宮内hCG注入療法は反復着床不全患者において胚着床率、臨床妊娠率、生児獲得率をわずかに改善する可能性があり、500IU投与量、最大500μLの容量、2IU/μL以上の濃度で有益性が示唆されます。
引用文献
Xi Luo, et al. BMC Pregnancy Childbirth. 2024 Jul 9;24(1):468. doi: 10.1186/s12884-024-06662-1.
論文内容
ESHRE2023ガイドラインで定義された反復着床不全(RIF)に対する子宮内hCG注入療法の有効性を評価することを目的としたメタアナリシスです。hCGを他の免疫療法に対する費用対効果の高い代替治療法として位置づけ、これまでの研究の不一致を明確化することを目指しました。
この研究はPRISMAガイドラインに準拠し、PROSPERO(CRD42024443241)に登録されたメタアナリシスとして実施されました。2023年12月までのPubMed、Web of Science、Embase、Cochrane Library、主要中国データベースを包括的に検索し、言語制限は設けませんでした。包含・除外基準は2023年ESHREガイドラインに厳密に準拠し、強固な対照群を持たない研究、明確なアウトカムを欠く研究、データの完全性が不十分な研究は除外しました。バイアスリスクはNewcastle-Ottawa Scale、ROBINS-I、RoB2ツールを用いて評価し、R統計ソフトウェアの’meta’パッケージを使用して固定効果モデルと変量効果モデルの両方を適用しました。投与量、容量、hCG濃度、投与タイミング、胚移植タイプによるサブグループ解析を実施しました。
結果
6つの後向き研究、6つの前向き研究、1つの多施設RCTを含む計13研究2,157名の参加者のデータを統合し、RIF患者における子宮内hCG注入療法の着床および妊娠アウトカム改善効果を評価しました。様々な投与量、投与タイミング、胚発育段階において臨床的妊娠率と胚着床率の有意な改善が観察され、流産率への影響は認められませんでした。特にサブグループ解析では、500IU投与量、500μL以下の容量、2IU/μL以上の濃度で最も有意な効果が確認されました。また、限られた研究数ながら、子宮外妊娠率や多胎妊娠率の有意な増加は示されず、出生率においてわずかな改善が認められました。
私見
hCGは着床過程において、子宮内膜のマトリックスメタロプロテアーゼ、成長因子、サイトカインを調節することで着床環境を改善します。また、母体免疫系の調節にも重要な役割を果たし、制御性T細胞の誘導・分化、エフェクターT細胞の抑制、マクロファージ遊走や子宮ナチュラルキラー細胞活性の調節を行います。これらの機序は胚分化促進、子宮内膜受容性改善、母体-胎児免疫寛容の促進に不可欠です。
投与時期は胚移植3日以上前(5研究)、胚移植前日(4研究)、胚移植当日(4研究)いずれにおいても有効性を認めています。今回取り上げられた報告は2015年から2023年と新しいのも、今回のメタアナリシスの特徴だと考えています。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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