培養

2025.09.13

卵の移動に使う道具について

卵の移動に使う道具の大きさを確認する方法について解説します。卵の移動にはパスツールピペットと呼ばれるガラス製のピペット(少量の液体を移動させるための器具)からガスバーナーの炎を使って溶かして引き伸ばして自作します。卵子の外径は160µmなので、ピペットの内径は160µmよりも大きいものを使わなければなりません。したがって、ピペットを自作した後は内径を必ず調べます。これには顕微鏡の接眼レンズ(覗くところ)にスケールメーターと呼ばれる定規の目盛のようなものが印字されたガラスをはめ込んで使います。我々が使っている顕微鏡の最高倍率は115倍なので、この倍率で見たときのスケールメーター一目盛が実際には何µmになるのか調べる方法を説明します。

スケールメーターとは別に対物ミクロメーターを使います。対物ミクロメーターはスライドグラスの中央に一目盛の幅が10µmの線が正確に印字されています。一目盛が10µmなので、卵子の外径160µmの場合、対物ミクロメーターの16目盛分に相当します。

あとはスケールメーターと対物ミクロメーターの目盛を重ねて、対物ミクロメーターの16目盛がスケールメーターの何目盛分に相当するか調べるだけです。当クリニックの場合、160µmはスケールメーターの19目盛分となります。したがって、スケールメーター一目盛分の大きさは160µm÷19目盛≒8.4µmになります。

なので、スケールメーターで24目盛のピペットの内径は24×8.4µm≒201.6µmとなって、卵子の外径160µmよりも大きいので、卵子を傷つけない大きさであることが分かります。

今回は卵の移動に使う道具の大きさを確認する方法について説明しました。

少しでも培養士の仕事のことを知って頂ければと思います。

文責:平岡謙一郎(亀田IVFクリニック幕張 培養管理室長/生殖補助医療管理胚培養士)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# ピペット

亀田IVFクリニック幕張 生殖医療事業管理部 培養管理室長

平岡 謙一郎

亀田IVFクリニック幕張 培養管理室長/生殖補助医療管理胚培養士。広島県立大学大学院修了(博士)。体外受精の中心となる受精・培養・凍結について専門知見に基づき紹介している。

この記事をシェアする

あわせて読みたい記事

顕微鏡調整の重要性

2024.12.21

顕微授精を行う培養皿の作り方(動画)

2024.02.03

培養の人気記事

受精前と受精後で透明帯の大きさが変わる?

2025.08.09

卵の移動に使う道具について

精子の大きさ

卵子の大きさ

卵の移動に使う道具について

今月の人気記事

胎児心拍が確認できてからの流産率は? 

2021.09.13

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

妊娠女性における葉酸サプリメント摂取状況と情報源(Public Health Nutr. 2017)

2025.12.09

2025.09.03

レトロゾール周期人工授精における排卵誘発時至適卵胞サイズ(Fertil Steril. 2025)

2025.09.03

凍結胚移植当日の血清E2値と流産率(Hum Reprod. 2025)

2025.06.09

高年齢の不妊治療で注目されるPGT-A(2025年日本の細則改訂について)

2025.11.10