
はじめに
受精確認は通常、媒精後16~18時間に行われ、正常受精は中央に位置する2つの前核(2PN)と2つの極体で確認されます。しかし約10%は0前核(0PN)または1前核(1PN)のみが観察され、異常受精に分類されます。現在のESHREガイドラインでは0PNおよび1PN接合子由来の胚移植は推奨されていません。しかし、一部の正常受精胚は16~18時間の観察時間に適合しないだけで生殖能力をもっていることが報告されています。0PNおよび1PN由来胚盤胞のうち、実際には正倍数性で両親性二倍体である割合を明らかにすることを目的としました。
ポイント
0PN由来胚盤胞の62.2%、1PN由来胚盤胞の36.0%が正倍数性かつ両親性二倍体であり、現行ガイドラインで廃棄される多くの胚に生殖能力がある可能性があります。
引用文献
Yeshua AS, et al. Fertil Steril. 2025 Oct;124(4):775-777. doi: 10.1016/j.fertnstert.2025.04.041.
論文内容
2021年9月から2023年2月まで米国の4培養室から得られた0PNおよび1PN接合子由来の胚盤胞を対象としたレトロスペクティブコホート研究です。着床前遺伝学的検査(PGT-A)のためにTE生検が計画された胚盤胞を対象としました。主要評価項目は、次世代シークエンサーによるPGT-Aと、その後のSTR解析により正倍数性かつ両親性二倍体であることが確認された0PNおよび1PN胚盤胞の割合です。比較対照群として、2023年1月から2024年12月の間に同一の遺伝学的検査ラボでPGT-Aを受けた2PN接合子由来の胚盤胞としました。
425個の胚盤胞(0PN由来275個、1PN由来150個)が解析対象となりました。比較対照群として2PN由来の14,485個の胚盤胞も含まれました。母体年齢の平均±標準偏差は、0PN胚で37.7±6.2歳、1PN胚で35.8±5.4歳、2PN胚で35.3±4.3歳でした。
結果
STR検査前の初回PGT-A結果では、正倍数性と判定された胚盤胞の割合は0PN胚で63.3%(174個)、1PN胚で62.7%(94個)、2PN胚で49.4%(7,150個)でした。
正倍数性と判定された0PNおよび1PN胚盤胞に対してSTR解析を実施し、両親性二倍体である割合を同定しました。174個の正倍数性0PN胚盤胞のうち171個(98.3%)が二倍体であり、これは初回コホート275個の0PN胚盤胞の62.2%が正倍数性二倍体であることを意味します。94個の正倍数性1PN胚盤胞のうち54個(57.5%)が二倍体であり、これは初回コホート150個の1PN胚盤胞の36.0%が正倍数性二倍体であることを意味します。PGT-A解析を受けた14,485個の2PN胚盤胞コホート(49.4%が正倍数性)と比較すると、母体年齢調整後、1PN胚盤胞は正倍数性両親性二倍体である可能性が26%低く(RR 0.74、95%CI 0.59-0.92)、一方0PN胚盤胞は36%高い結果でした(RR 1.36、95%CI 1.23-1.50)。
私見
本研究は、現行のESHREガイドラインで移植が推奨されていない0PNおよび1PN接合子由来の胚盤胞の多くが、実際には正倍数性かつ両親性二倍体であることを示した重要な報告です。
0PN胚については、2PN胚と比較してさえ有意に高い割合で正倍数性二倍体であることが示されました。これは一部の正倍数性二倍体胚が発育スピードが速く、単一時点での受精確認では2PN段階を捉えられない可能性を示唆しています。この現象はタイムラプス技術により確認できる可能性があります。
一方、1PN胚については、初回PGT-Aスクリーニングでは2PN胚より有意に高い正倍数性率を示しましたが、STR解析により最終的には正倍数性両親性二倍体である割合が2PN胚より有意に低いことが明らかになりました。これは1PN胚の一部が単為発生や異常受精である可能性を示唆しています。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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