
はじめに
PGT-A(着床前遺伝学的検査)により正倍数性と確認された胚でも、胚移植後の妊娠成功率には差が認められます。母体年齢増加は体外受精における主要な予後不良因子とされていますが、正倍数性胚においても母体年齢、胚形態、胞胚発育タイミングが妊娠成績に与える影響については十分に解明されていません。今回、PGT-A選択単一胚移植における母体年齢と胚形態が妊娠予後に与える影響を調査した後向き研究をご紹介いたします。
ポイント
正倍数性胚では、胚形態が妊娠成功の最も強力な予測因子であり、母体年齢は主に胚品質低下を介して妊娠率に影響し、流産リスクを年間11%増加させます。
引用文献
Ilaria Listorti, et al. J Assist Reprod Genet. 2025. doi: 10.1007/s10815-025-03744-7.
論文内容
PGT-A単一胚移植における母体年齢、胚形態、発育速度が妊娠成功率に及ぼす相互作用を検討し評価することを目的とした後向き観察研究です。2020年7月から2024年12月にかけて実施された822周期PGT-A単一胚移植を対象とし、自己卵子771周期、ドナー卵子51周期が含まれました。主要評価項目は継続妊娠率/出生率、着床率、流産率で、母体年齢はカテゴリー別(≤34歳、35-38歳、39-41歳、≥42歳)および連続変数として評価されました。
結果
42歳以上の女性では、若年層と比較して継続妊娠率・出生率が有意に低く(40.7% vs 54.6-54.8%)、胚形態不良、胞胚発育遅延が認められました(p<0.05)。若年層間(≤34歳、35-38歳、39-41歳)では有意差は認められませんでした。多変量ロジスティック回帰解析では、胚形態が成功の最も強力な決定因子として同定されました。Excellent胚では継続妊娠/出生のオッズが4.6倍増加(95% CI 2.63-8.05; p<0.0001)、Good胚では2.8倍増加(95% CI 1.61-4.92; p=0.0003)を示し、Poor胚と比較して有意な改善が認められました。母体年齢の1歳増加ごとに流産リスクが11%増加(RR 1.11、95% CI 1.03-1.19; p=0.005)することが明らかになりました。胚形態は流産率に影響を与えませんでした。母体年齢を連続変数として評価した場合、出生率に対して年間約3%の減少傾向を認めましたが、胚形態と発育タイミングで調整後統計学的有意性は失われました(OR 0.97; 95% CI 0.94-1.01; p=0.15)。
私見
この論文のポイントは下記2点です。
「胚形態は着床能に影響し、母体年齢は着床後の妊娠維持に影響する」
「凍結時期よりも形態評価の方が重要」
これまでの研究では、正倍数性胚の妊娠率に胚形態は関与しないとする報告(A. Capalbo, et al. Hum Reprod, 2014)もありましたが、近年のメタアナリシスでは品質不良正倍数性胚の出生率低下と自然流産率増加が報告されています(D. Cimadomo, et al. Hum Reprod Update, 2023)。母体年齢の影響について、先行研究では42歳以上で正倍数性胚移植後も出生率低下が報告されており(A. Reig, et al. J Assist Reprod Genet, 2020)、本研究結果と一致します。流産率の年齢依存性増加は、胎盤形成や子宮内膜機能の年齢関連変化を反映している可能性があり、正倍数性胚でも母体年齢の影響は完全には除去されないことを示しています。
ただ、症例数が少ないのでなんともいえないところだなーとも感じます。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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