体外受精

2026.01.09

Embryo DonationとDouble Gamete Donationの治療成績比較(Fertil Steril. 2025)

はじめに

日本ではあまり馴染みがありませんが、欧米では卵子と精子の両方を提供で得る必要がある場合、大きく2つの選択肢があります。1つ目は「提供胚(embryo donation)」で、他のカップルの体外受精治療で余った凍結胚を譲り受ける方法です。2つ目は「二重配偶子提供(double gamete donation)」で、卵子提供者と精子提供者を自ら選択し、新たに胚を作成する方法です。前者は費用が安く入手しやすい反面、胚の質や背景情報が不明確な場合があります。後者は提供者を選べる利点がありますが、費用が高額です。今回、米国の全国データを用いて、これら2つの方法の妊娠予後を比較した初めての大規模研究をご紹介いたします。

ポイント

提供胚移植と、凍結提供卵子・提供精子による胚移植の出生率は同等(44.1% vs. 45.1%)であり、どちらを選択しても妊娠予後に差はありません。

引用文献

Tsai S, et al. Fertil Steril. 2025 Dec;124(6):1265-1271. doi: 10.1016/j.fertnstert.2025.06.045.

論文内容

 2016年から2019年の米国Society for Assisted Reproductive Technology Clinic Outcomes Reporting Systemのデータを用いたレトロスペクティブコホート研究です。初回の提供胚凍結融解胚移植を受けた患者、または凍結提供卵子と提供精子から作成した受精胚の初回新鮮胚移植を受けた患者を対象としました。代理母、reciprocal IVF(女性同士のカップルで一方の卵子ともう一方の子宮を使用する方法)、PGT検査を使用した患者は除外されました。主要評価項目は周期開始あたりの出生率、副次評価項目は臨床妊娠率、流産率、良好な周産期予後としました。

結果

提供胚移植周期3,439例と二重配偶子提供胚移植周期439例が含まれました。提供胚のレシピエントは二重配偶子提供のレシピエントと比較して若年でした(中央値40歳 vs. 44歳)。興味深いことに、提供胚の卵子ソース年齢の中央値は29歳、二重配偶子提供では26歳でしたが、提供胚の74.5%では卵子ソース年齢のデータが欠損していました。
主要評価項目である出生率は、提供胚群44.1%、二重配偶子提供群45.1%で有意差はありませんでした(OR 1.04、95%CI 0.85-1.27)。臨床妊娠率も55.4% vs. 57.6%(OR 1.09、95%CI 0.90-1.34)、流産率も18.7% vs. 20.2%(OR 1.10、95%CI 0.79-1.52)と同等でした。レシピエントの年齢、BMI、喫煙状況、妊娠歴、分娩歴、人種、不妊診断、移植受精胚数、移植日を調整した多変量解析でも、出生率(aOR 1.16、95%CI 0.92-1.47)、臨床妊娠率(aOR 1.26、95%CI 0.99-1.59)、流産率(aOR 1.05、95%CI 0.72-1.54)に差は認められませんでした。
出生例における多胎出生率(15.6% vs. 14.7%)、早産率(25.9% vs. 25.8%)、低出生体重率(24.1% vs. 20.7%)、良好な周産期予後率(単胎、37週以上、出生体重2,500-4,000g:65.1% vs. 64.7%)にも差はありませんでした。2016年から2019年の経年的な出生率と臨床妊娠率のトレンドも両群間で有意差はありませんでした。

私見

提供胚に関する過去の研究では、2019年のCDCデータで凍結提供胚移植の出生率が44.8%と報告されており(Lee JC, et al. Am J Obstet Gynecol, 2023)、本研究の44.1%と一致しています。二重配偶子提供については、2012-2016年のSART CORSデータで凍結提供卵子を用いた周期の出生率が39.6%(Eaton JL, et al. Obstet Gynecol, 2020)、スペインの単施設研究で2001-2010年の二重配偶子提供の出生率が38.8%(Blázquez A, et al. Hum Fertil, 2016)と報告されています。
日本では第三者配偶子提供は一般的には行われておらず、提供胚の利用は基本ありません。
ただし、今後検討する時期がくるかもしれません。倫理観をもちつつも固定概念にばかり縛られないようにしておくことが時代の価値観ふくめて医療にあたる我々生殖医療従事者の役割なのかもしれません。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 受精卵の評価

# ドナー・サロゲート

# 凍結融解胚移植

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

この記事をシェアする

あわせて読みたい記事

葉酸摂取とART成績(Obstet Gynecol. 2014)

2025.12.10

非モザイク型異数性胚移植後に健康な正常二卵性双胎児が出生(Fertil Steril. 2025)

2025.12.03

男性年齢・精液所見が正倍数性率に影響を与える(Fertil Steril. 2025)

2025.11.29

PGT-A胚移植にて胚形態・母体年齢が妊娠予後に及ぼす影響(J Assist Reprod Genet. 2025)

2025.11.25

2つの染色体異常を持つモザイク胚でも健康児が出生した症例(J Assist Reprod Genet. 2025)

2025.11.24

体外受精の人気記事

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

高年齢の不妊治療で注目されるPGT-A(2025年日本の細則改訂について)

日本の生殖補助医療における多胚移植率と多胎率の推移(J Obstet Gynaecol Res. 2025)

プロバイオティクスによる流産率低下と妊娠成績への影響(Sci Rep. 2023)

自然周期採卵における採卵時適正卵胞サイズ(Frontiers in Endocrinology. 2022)

コエンザイムQ10における生殖機能への影響

今月の人気記事

胎児心拍が確認できてからの流産率は? 

2021.09.13

2023年ARTデータブックまとめ(日本産科婦人科学会)

2025.09.01

高年齢の不妊治療で注目されるPGT-A(2025年日本の細則改訂について)

2025.11.10

2025.12.31

2025年を振り返って:妊活コラム創設初年

2025.12.31

腟潤滑ゼリーは妊娠率に影響する?

2022.01.24