体外受精

2026.05.15

胚移植カテーテルの細菌汚染が体外受精成績に与える影響(F S Rep. 2026)

はじめに

ART成績は、たとえ良好胚と正常な子宮腔・受容性のある内膜が揃っていても、胚移植(ET)の手技条件の最適化は重要な課題です。経頸管的にカテーテルを挿入するET手技では、受精胚への毒性のため局所消毒薬を使用できず、子宮頸腟由来の常在菌が子宮内に持ち込まれる可能性が指摘されています。今回、ETカテーテルの細菌汚染を培養法とリアルタイムPCR法の双方で評価し、体外受精成績への影響を検討したチュニジアからの前向き研究をご紹介いたします。

ポイント

ETカテーテルの細菌汚染(ラクトバチルス以外)は、妊娠率および出生率を有意に低下させる独立した因子です。

引用文献

Boughanmi A, et al. F S Rep. 2026. doi: 10.1016/j.xfre.2026.03.003

論文内容

ETカテーテルの細菌汚染が体外受精成績に及ぼす影響を、培養法と分子生物学的手法の双方で評価することを目的とした前向き観察研究です。
2021年1月から2023年9月までの2年9か月間、チュニスのAziza Othmana病院で実施されました。対象は42歳以下、超音波上正常子宮、初回または2回目の移植で良好胚(新鮮胚または凍結胚)を移植された女性です。重度の精子異常を有するパートナーを持つ症例や、リジッドカテーテルが必要となった困難症例は除外されました。ET時に3種類の検体が採取され、それぞれ異なる検査が行われました。腟スワブは腟円蓋部および下部腟から綿棒で採取され、Nugentスコア評価(≥7をBVと診断)と培養が行われました。頸管粘液はAspiglaire(Cryo Bio System社)で吸引採取し、培養のみ施行されました。ETカテーテル先端2cmは滅菌メスで切離し、培養に加えてリアルタイムPCR(Gardnerella vaginalisと尿生殖器マイコプラズマ:Ureaplasma urealyticum、Ureaplasma parvum、Mycoplasma hominis)を施行しました。培養陽性は腟・頸管粘液ではラクトバチルス以外の菌の発育、ETカテーテルではラクトバチルス以外の菌が10³ CFU/mL以上と定義されました。主要評価項目は妊娠率(ET後15日目のβ-hCG陽性、胚盤胞移植では10日目)と出生率です。

結果

最終的に210組のカップルが解析対象となり、平均不妊期間5.2±2.8年、ET時平均年齢34.5±4.4歳、半数が新鮮胚移植、69.6%が初回移植でした。新鮮胚移植ではアンタゴニスト法が90.3%、凍結胚移植ではホルモン調整周期が72.8%で最頻でした。全体の妊娠率は29%(n=61)、出生率は17.5%(36/206)でした。
腟スワブのNugentスコア評価ではBVが12.4%(26/210例)に認められました。各検体の培養陽性率は、腟スワブ79%(166例、うち110例で2菌種以上)、頸管粘液53.8%(113例、うち34例で2菌種以上)、ETカテーテル先端33.8%(71例)と、上行するにつれて低下していました。
カテーテル培養陽性71例の主要分離菌はStreptococcus agalactiae(n=31)、Actinomyces odontolyticus(n=9)、Gardnerella vaginalis(n=8)で、全例で同一菌種が腟・頸管粘液からも検出されていたことから、カテーテル汚染の起源は子宮頸腟由来と考えられました。新鮮胚移植は凍結胚移植に比べカテーテル汚染リスクが3倍高くなりました(45.7% vs. 21.9%、P<.001、OR=3.0、95%CI 1.6–5.5)。ETカテーテル先端のリアルタイムPCRではG. vaginalisが31.9%(67例)、尿生殖器マイコプラズマが13.8%(U. parvum 22例、U. urealyticum 8例、M. hominis 2例)に検出されました。培養とPCRを統合した総汚染率は58.1%で、BV患者では非BV患者の6倍の汚染リスクでした(88.5% vs. 55.3%、P=.001、OR=6.2、95%CI 1.8–21.4)。培養陽性カテーテルでは妊娠率(8.5% vs. 39.6%、P<.001、OR=7.0、95%CI 2.9–17.5)および出生率(4.2% vs. 24.4%、P<.001、OR=7.4、95%CI 2.2–25.0)が有意に低下しました。
一方、カテーテル先端培養でラクトバチルスが検出された症例では妊娠率(55.3% vs. 21.5%、P<.001、OR=0.2、95%CI 0.1–0.4)と出生率(30.4% vs. 13.7%、P=.009、OR=0.4、95%CI 0.2–0.8)が有意に高くなりました。なお、ラクトバチルスは培養法でのみ評価され、本研究ではPCR検出は行われていません。PCRのみでG. vaginalisまたはマイコプラズマ陽性であった症例では妊娠率・出生率の低下傾向はあるものの統計学的有意差には達しませんでした。多変量解析では、培養陽性カテーテルが妊娠失敗(P=.001、調整OR=14.4、95%CI 3.1–66.9)および出生率低下(P=.006、調整OR=8.2、95%CI 1.8–37.4)の唯一の独立因子でした。

私見

論文中で示されているとおり、カテーテル培養陽性71例は全例で同菌が腟・頸管からも検出されており、汚染の起源が子宮頸腟由来であることは明確ですが、腟培養陽性166例のうちカテーテル汚染に至ったのは71例(42.8%)にとどまり、なぜ残り約半数ではカテーテルまで到達していません。
汚染が成績低下を招く機序としては下記が論文中で議論されています。
持ち込まれてすぐに起こるものなのか、そういう環境自体が成績を左右しているのかは興味深いところです。
(1)カテーテルを介した子宮内への子宮頸腟由来菌の持ち込みによる内膜の生化学的・超微細構造的変化(Paulson et al. Fertil Steril. 1990、Navot et al. J Clin Endocrinol Metab. 1989)
(2)慢性子宮内膜炎(Czernobilsky. Fertil Steril. 1978)を介した受容能低下
(3)着床に必要な免疫寛容を乱す免疫学的機序(Sirota et al. Semin Reprod Med. 2014)
(4)受精胚そのものへの直接的影響
臨床応用としては、論文の結語にあるとおり、(1)滅菌生食での子宮頸管洗浄、(2)移植前の頸管粘液吸引(あまり推奨されていませんが・・・)、(3)カテーテルが腟壁に接触しないよう留意する手技、(4)BVのスクリーニングと治療、が現実的な対応策と考えられます。当院でも、特に新鮮胚移植や反復着床不全(RIF)症例において腟・子宮内細菌叢の評価と是正は意義のある介入となりそうです。

新鮮胚移植で凍結胚移植より3倍汚染リスクが高い点は、Salim et al. Hum Reprod. 2002の報告と一致しており、採卵時の経腟操作・卵巣刺激・腟プロゲステロン投与による腟内細菌叢の変化(Hyman et al. J Assist Reprod Genet. 2012)が背景にあると論文では考察されています。

我々はNugentスコアによるBV診断を行っています。論文中ではEuropean infertility expert consensus 2020(García Velasco et al. Reprod Biomed Online. 2020)およびフランスCNGOFガイドライン2022(Sonigo et al. Gynecol Obstet Fertil Senol. 2024)でNugentスコアによるBV診断と治療が推奨されている旨が引用されていたのが参考になりました。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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