はじめに
SGA(small for gestational age)は通常の在胎期間の胎児の大きさより、かなり小さく生まれた新生児の状態を指します。本邦では出生体重および身長が、在胎週数ごとに標準値と比較して、その両方が10%未満である状態と定義されています。
SGA児は将来の低身長や生活習慣病発症のリスクが高いとされており、ARTの新鮮胚移植で増加するとされています。今回ご紹介する論文は、妊娠時のエストロゲン値が低出生体重児やSGA児に影響するのではないかという切り口の論文です。また、ホルモン調整周期でのエストロゲン値が出産予後に関する記載も加えられています。
ポイント
新鮮胚移植後の高エストロゲン環境は出生体重を低下させSGA児リスクを増加させますが、凍結融解胚移植やホルモン調整周期での生理的エストロゲンレベルでは胎児への影響は認めていません。
引用文献
Xiao-Ling Hu, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2014 DOI: 10.1210/jc.2013-3362
論文内容
体外受精の新鮮胚移植は、エストラジオール(E2)が生理的な範囲を超えていることが多いため、周産期予後に与える影響を検討することを目的としています。妊娠後、最初の3ヶ月間の母体の高エストロゲン環境が低出生体重児とSGA児のリスクを増加させるかどうかを調査しています。
新鮮胚移植(n=2610名)、凍結融解胚移植(n=1039名)、自然妊娠(n=5220名)後に生まれた8869名の単胎児とその母体を対象として、出生体重、LBW、SGA、母体血清エストラジオール値を調査しています。胚移植はすべて初期胚で実施しています。
結果
妊娠4週目および8週目に新鮮胚移植を受けた女性の平均血清E2値は、凍結融解胚移植を受けた女性および自然妊娠の女性よりも有意に高くなりました(P<0.01)。妊娠4週目および8週目に新鮮胚移植を受けた女性の血清E2値は、採卵決定のhCG投与日の血清E2値と正の相関がありました(それぞれr=0.5およびr=0.4;P<0.01)。
新鮮胚移植後の出生体重は、凍結融解胚移植後および自然妊娠後に比べて有意に低く(P<0.01)、低出生体重児とSGA児の発生率が増加しました(P<0.05)。さらに、新鮮胚移植群では、E2値が高い場合(hCG投与日に10460pmol/L以上)、E2値が低い場合よりも低出生体重児(P<0.01)とSGA児(P<0.01)のリスクが高く、hCG投与日の母体の血清E2値は出生体重と負の相関がありました(P<0.01)。
私見
エストロゲンにフォーカスして胎児の出生体重を検討しているところです。新鮮胚移植群におけるSGA児の発生率(6.30%)は、凍結融解胚移植群(5.00%)および自然妊娠群(4.8%)よりも有意に高い傾向があり、凍結融解胚移植群と自然妊娠群の間では、SGA児の発生率に有意な差はありませんでした。胎盤の面積も評価されていて、新鮮胚移植、凍結融解胚移植、自然妊娠群では、胎盤面積に有意差は認められていません。
エストラジオールは、妊娠の過程で最も重要な性ホルモンの一つであり、胎盤の機能と胎児の成長の様々な側面に影響(主に螺旋状動脈の侵入/リモデリングのエストロゲン依存性の抑制)を与えていると推測されます。子宮動脈浸潤抑制の合併症の一つとして、胎盤の血流不良が考えられます。今回の研究では胎盤重量には差がみとめられていませんが、組織レベルでは差がでているのかもしれません。
少なくとも、ホルモン調整周期でのエストロゲン補充で用いるエストロゲンレベルでは胎児には影響を与えていなさそうです。今後もホルモン調整周期の至適なエストロゲン・プロゲステロン補充を周産期予後も踏まえて検討していく必要があると思っています。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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