はじめに
アスピリンは血行動態および免疫調節作用を有する広く利用可能な非ステロイド性抗炎症薬です。低用量アスピリン療法(LDA)は、周産期医療において、リスクの高い女性における子癇前症や抗リン脂質抗体症候群の女性における流産予防として使用されています。
しかし、妊娠転帰を検討したこれまでの試験では、アスピリン治療は妊娠12週以降に開始されており、不妊症や早期流産への潜在的な影響は研究されていませんでした。妊娠には一定の炎症が必要であるという考えもあり、アスピリンを体外受精の移植時に使用することを躊躇する医師も多く、私もその中の一名です。
ポイント
1~2回の流産経験のある女性が妊娠前から低用量アスピリン療法を週4日以上使用することで、妊娠率と出生率が改善し、流産率が低下する可能性が示されました。毎日のLDAのアドヒアランスを高めることが効果向上の鍵となります。
引用文献
Naimi AI, et al. Ann Intern Med. 2021. DOI: 10.7326/M20-0469.
論文内容
妊娠前に開始された低用量アスピリン療法の流産および出生率への影響を評価することを目的としました。EAGeR(Effects of Aspirin on Gestation and Reproduction)試験を使用したポストホック分析のための前向きコホート研究を実施しました。(ClinicalTrials.gov: NCT00467363)
対象
- 米国の4つの大学医療センターで実施
- 18~40歳の女性1227名
- 月経周期21~42日
- 不妊経験がない平均年齢28歳前後の女性
- 過去に1~2回の流産経験があり、妊娠を希望している名
- 低用量アスピリン療法またはプラセボへのアドヒアランスは、一定間隔でピルボトルの重さを測定することによって評価
主要評価項目はカルテに記載されたhCG反応陽性、流産、出生数。妊娠までの期間は最大6ヶ月追跡し、妊娠した場合はその後も調査しました。
結果
プラセボ群と比較して、週7日のうち5日はLDAを内服することで、試験に参加した女性100名あたり以下の結果が得られました。
- hCG検出妊娠が8名増加(95%CI、4.64~10.96妊娠)
- 出生数が15名増加(CI、7.65~21.15出生)
- 妊娠喪失が6名減少(CI、12.00~0.20流産)
さらに、プラセボと比較して、LDA療法の妊娠後の開始でも効果を認めました。また週7日のうち最低4日でも効果が得られました。
1回または2回の流産経験のある女性が妊娠前に低用量アスピリン療法を週4日以上使用することで、生殖成績が改善される可能性が示唆されました。毎日のLDAのアドヒアランスを高めることが、効果を向上させる鍵となるようです。
私見
EAGeR試験では低用量アスピリン療法群はプラセボ群と比較して以下のような結果が示されています。
Intent-to-treat解析(Schisterman EF, et al. Lancet. 2014)
- 出生数が10%増加しましたが、臨床上の推奨事項の変更を保証するほどの精度はありませんでした(95%CI、0.98~1.22)
- 流産には影響は認めませんでした(LDA群では13%、プラセボ群では12%)
Per protocol解析(Schisterman EF, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2015)
- 生化学的妊娠率と臨床的妊娠率の増加を認めました
- 流産後の妊娠までの期間の短縮を認めました
Per protocol解析(Sjaarda LA, et al. J Clin Endocrinol Metab. 2017)
- 慢性炎症(高感度CRP測定)を持っている患者での妊娠と出生が増加しました
Intent-to-treat解析とper protocol解析でこのような差がついた理由をみていくと、アスピリン内服を途中で中断した参加者が数多くいたためと考えられます。妊娠前の段階では85%の参加者が7日のうち5日を遵守していましたが、妊娠発覚後は67%(特に妊娠20週以降は著明に低下)にまで低下しました。
吐き気や嘔吐、性器出血などの合併症による中断もあるでしょうが、以前流産した時期を超えた安心感もあるでしょう。ただ、今回の解析では毎日飲まなくても週4回以上の内服(筆者らは隔日内服でも可能と判断)で効果があるとしており、これは心臓血管系の予防でも同様のことが示されていますので、私も今後は患者様に同様に指導していきたいと思います。
原因不明の生化学的妊娠を示す患者様に対し、今後、患者様に説明の上でアスピリン投与を検討してもよいかなと考えるよい機会となりました。
文責:川井清考(WFC group CEO)
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