体外受精

2021.05.17

PPOSの胚質はアンタゴニスト法と変わらない(Hum Reprod. 2020)

はじめに

PPOS(Progestin-primed ovarian stimulation)は黄体ホルモンを早発LHサージ抑制として使用するため、新鮮胚移植は行えず全胚凍結となります。ドナーエッグ、着床前検査の場合は大前提として全胚凍結となるため、世界的にPPOS周期が増加しています。PPOSの臨床結果について、通常卵巣刺激に比べて生殖成績は同等とされていますが、Begueríaらは一部の臨床成績が低下することを指摘しています。今回、PPOSとGnRHアンタゴニスト法で正倍数性胚盤胞の割合を比較した論文をご紹介します。 

ポイント

PPOSとGnRHアンタゴニスト法において、患者名あたりの胚盤胞数と正倍数性胚盤胞数、成熟卵子あたりの正倍数性胚盤胞数は同等であり、新鮮胚移植を行わない患者では有効な刺激法であることが示されました。 

引用文献

La Marca A, et al. Hum Reprod. 2020. DOI: 10.1093/humrep/deaa068 

論文内容

PPOSは通常の卵巣刺激を行った患者と比べて正倍数性胚盤胞の割合に差がないか調査することを目的としました。2018年から2019年にかけて6か月間に192名の女性から得られた1867個の卵子からの785個の胚盤胞を解析対象としました。PPOS(MPA 10mg/日)を受けた48名の女性と、GnRHアンタゴニスト法(fixed法:ガニレスト® 卵巣刺激7日目)で治療を受けた年齢をマッチさせた144名で比較検討を行いました。 

結果

両群とも患者背景は類似しており、生殖医療成績にも差がありませんでした。成熟卵子1個あたりの正倍数性胚盤胞率は両群とも21%でした。また、PPOS群の患者あたりの正常胚率38.7(25.5~52.9)%、患者あたりの正倍数性胚盤胞数(中央値、四分位範囲、IQR)は2.1(1.3-2.9)、GnRHアンタゴニスト法で治療を受けた女性では、それぞれ42(28-53.8)%、2(1.3~3.1)でした。 

私見

患者名あたりの胚盤胞数と正倍数性胚盤胞数、成熟卵子あたりの正倍数性胚盤胞数は、PPOSとGnRHアンタゴニスト法を受けた女性では同等でした。 
PPOSとGnRHアンタゴニスト法は同等の成績であることを正倍数性胚盤胞数で示した論文です。新鮮胚移植を行わない患者では有効な刺激であることがわかります。当院ではGnRHアンタゴニスト法がメインですが、徐々にPPOS症例も増やしていこうと考えています。 

HMGアンタゴニスト法 PPOS 
女性年齢 37歳 37歳 
AMH 3.4ng/ml 3.2ng/ml 
Total FSH量 2630単位 2750単位 
卵巣刺激日数 11日 11.8日 
正常受精卵数 7.2個 7.4個 
患者あたりの正倍数性胚盤胞数 2個 2.1個 
患者あたりの正倍数性胚盤胞割合 42% 38.7% 
成熟卵あたりの正倍数性胚盤胞率 21% 21% 
表:患者背景と体外受精成績 

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# GnRHアンタゴニスト

# PP(PPOS)

# 着床前遺伝学的検査(PGT)

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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