はじめに
人工授精から体外受精へのステップアップは、費用面での負担増加に加え、仕事との両立なども含めて、患者様にとって大きな意思決定となります。どのようにクリニックとしてサポートできるかを日々考えています。
人工授精の適応には、原因不明の場合と男性に原因がある場合がありますが、今回は男性因子について触れたいと思います。
ポイント
人工授精の妊娠成績を予測する重要な因子は「調整後総運動精子数」であり、カットオフ値は500万〜1000万が妥当なラインとされています。ただし、この値を下回っても一定の妊娠率は担保されます。調整前の運動率が極端に低い症例(10%未満)でも妊娠は可能であり、画一的な判断は避けるべきとされています。
論文内容
男性所見はWHOでの精液所見によって評価されますが、海外を含めて人工授精との関連を示唆する論文の大半は「総運動精子数」(精液量×濃度×運動率)です。
「調整前総運動精子数」は通常の精液検査から算出され、「調整後総運動精子数」は人工授精などを行うために精子の遠心処理などを行った後の精液検査から算定されます。
人工授精の妊娠成績を予測する予後因子は「調整後総運動精子数」です。カットオフ値は様々ありますが、500万〜1000万というのが妥当なラインです。
調整後総運動精子数の根拠となる論文では以下のカットオフ値が報告されています。
- 100万以上(Lemmens Lら. 2016)
- 200万以上(Bollendorf Aら. 1996)
- 500万以上(Tan Oら. 2014、Tomlinson Mら. 2013)
- 1,000万以上(Ok EKら.2013)
- 900万(Akhil Muthigiら.2021)
ただし、ここで難しいのは、「このラインを切ったら妊娠率が低下するが、妊娠しないわけではない」というのが全ての論調です。つまり、この数値を切る名は一定の回数の人工授精を経たら体外受精にステップアップしましょうね、というのが考え方です。
当院でも調整後総運動精子数別の人工授精妊娠率を出していますが、「調整後総運動精子数」が250万未満でも一定の妊娠率が担保されています。(男性因子を評価するために39歳以下の女性症例に限定し検討いたしました。)

私見
難しいのは、「このラインを切ったら妊娠率が低下するが、妊娠しないわけではない」というのが全ての論調です。つまり、この数値を切る名は一定の回数の人工授精を経たら体外受精にステップアップしましょうね、というのが考え方です。
当院でも調整後総運動精子数別の人工授精妊娠率を出していますが、「調整後総運動精子数」が250万未満でも一定の妊娠率が担保されています。(男性因子を評価するために39歳以下の女性症例に限定し検討いたしました。)
患者様に情報提供を行いながら個別に対応していくしかないですね。
文責:川井清考(WFC group CEO)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。