はじめに
妊娠初期のプロゲステロン投与はホルモン調整周期には必須です。Placental-luteal shiftが終わった後でも早産予防でプロゲステロン投与が行われることもあります。
妊娠中の黄体ホルモン製剤の選択にあたって東口先生が安全性について警鐘を鳴らしています(DOI https://doi.org/10.18888/sp.0000000253)。アメリカ生殖医学会は天然型黄体ホルモンであるプロゲステロンが先天異常の原因になることはないことを発表し、同時にアンドロゲンレセプターに結合する一部の合成黄体ホルモンは尿道下裂を引き起こす可能性があることとしています。合成黄体ホルモン製剤を検証すると、ディドロゲステロンは比較的安全性が高く、クロールマジノン酢酸エステル、レボノルゲストレル、メドロキシプロゲステロン酢酸エステルは危険性が高いと評価されるべきとされています。
PPOSでは卵巣刺激の際に黄体ホルモンを用いるだけで胚移植の際に用いるわけではないので、先天奇形のリスク上昇はないとされています。メタアナリシスが報告されましたのでご紹介させていただきます。
ポイント
PPOSはアゴニスト法(ショート法)と比較して先天性奇形のリスクは上昇せず、9,274名の新生児を対象としたメタアナリシスで安全性が確認されました。
引用文献
Irene Zolfaroli. et al. J Assist Reprod Genet. 2020. DOI: 10.1007/s10815-020-01755-0
論文内容
PubMed、Embase、Cochrane Central Register of Controlled Trials、BioMed Centralの各データベースで、PPOS(Progestin-primed ovarian stimulation)とアゴニスト法(ショート法)を比較した研究を検索しました。データはランダム効果モデルを用いたメタアナリシスにより新生児先天性奇形のリスクを評価しました。
結果
9,274名の生児を対象とした計4件の研究が含まれています。
先天性奇形(OR 0.92; 95% CI 0.63-1.34; p = 0.65)(QOE:非常に低い)および低出生体重(OR 1.06; 95% CI 0.95-1.18; p = 0.29)(QOE:非常に低い)に関して、PPOSはショート法と比較して差は認められませんでした。PPOSでは早産のリスクが低い傾向が認められました(OR 0.90; 95% CI 0.80-1.02; p = 0.10)(QOE:非常に低い)
私見
PPOSはアゴニスト法と比較して先天性奇形は上昇せず、安全な刺激法であると考えられます。
約9,000名を対象としたメタアナリシスではPPOSの胎児奇形リスクの上昇はなさそうですね。
| 論文 | ショート法 | PPOS | 黄体ホルモン種類 | 投与量 |
|---|---|---|---|---|
| Zhu et al. 2017 | 293名 | 253名 | プロゲステロン膣剤 | 200 |
| Zhang et al. 2017 | 1,931名 | 1,658名 | MPA | 10 |
| Wang et al. 2018 | 855名 | 734名 | プロゲステロン膣剤 | 100 |
| Huang et al. 2019 | 1,429名 | 2,127名 | dydrogesterone | 20 |
文責:川井清考(WFC group CEO)
お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。