不育症

2021.12.02

流産歴がある妊娠初期の性器出血には黄体ホルモン腟剤(BMJ. 2021)

はじめに

イギリスの医療品質を向上させるために設立されたイギリス政府機関管轄下の特別医療機構であるNICE(National Institute for Health and Clinical Excellence)は2021年の妊娠初期の管理にプロゲステロンの有用性を追加しました。こちらをご紹介させていただきます。

ポイント

流産歴があり妊娠初期に性器出血を認める女性に対し、プロゲステロン腟剤400mgを1日2回、胎嚢確認から妊娠16週まで投与することでイギリスでは年間8,450件の流産を予防できる可能性があります。

引用文献

Jacqui Wise. BMJ. 2021. DOI: 10.1136/bmj.n2896.

論文内容

この推奨は、流産予防のためのプロゲステロンに関するコクラン・ネットワーク・メタアナリシスに基づくものです。委員会は、妊娠初期に出血があるが流産歴のない女性、または流産歴はあるが今回の妊娠で出血のない女性には有益性を示す根拠を見出せませんでした。しかし、これら2つの領域についてはさらなる研究が推奨されています。
流産は妊娠初期によくみられる合併症で、全妊娠の約20%に影響を及ぼします。患者様には心理的害や精神的健康上の合併症を含む深刻な影響を与える可能性があります。
そのなかの大きな臨床試験であるPRISM試験は、国立保健研究所(National Institute for Health Research)が資金提供し、バーミンガム大学がトミーズ全国流産研究センター(Tommy’s National Centre for Miscarriage Research)と協力して実施したもので、イギリスの48病院で4,153人の女性を対象に行われました。試験の結果、プロゲステロンは流産の経験がない女性の流産率を低下させることはありませんでしたが、流産の経験が1〜2回の女性では流産が僅かに減少し、流産の経験が3回以上の女性では流産が大きく減少することがわかりました。
更新されたガイドラインでは、超音波検査で子宮内妊娠が確認され、性器出血があり、過去に流産歴のある女性に対して、プロゲステロン腟剤(micronised progesterone)400mgを1日2回投与することを推奨しています。胎児心拍が確認された場合、プロゲステロンによる治療は妊娠16週まで継続することが推奨されています。
NICEは、プロゲステロンの使用による母体や児への害を示す根拠はないとしていますが、稀な事象の可能性を除外するには根拠が不十分であるとしています。

PRISM試験に関わったトミーズセンターのディレクターであるArri Coomarasamy氏は、「我々の研究により、プロゲステロンは堅固で効果的な治療選択肢であり、イギリスでは年間8,450件の流産を予防できる可能性があることが示されましたが、まだ恩恵を受ける可能性のあるすべての人に届いていないことを認識しています。NICEによる新しい推奨は、全国の流産サービスにおける現在の格差に取り組み、可能な限りこれらの損失を防ぐための重要な一歩です」と述べています。

私見

プロゲステロンですべての流産を防ぐことができるわけではありませんが、一部の流産で苦しむ女性には有益であることが何より価値のある情報だと思います。 
効果があると推測されているのは下記の表のように過去の流産歴があり、妊娠初期に性器出血を認める女性です。過去の流産歴があるだけ、もしくは妊娠初期に性器出血があるだけの患者様へのプロゲステロン腟剤投与の流産予防効果は今回の委員会の判断では根拠がないとされ、さらなる検証が必要であると結論づけられました。 

胎嚢確認から妊娠16週までのプロゲステロン腟剤投与の推奨女性 
 過去の流産歴あり 過去の流産歴なし 
妊娠初期性器出血あり 推奨 根拠なし 今後の検証 
妊娠初期性器出血なし 根拠なし 今後の検証 適応なし 

下記も参考にして下さい。 

妊娠初期に出血した女性の流産予防(Lancet. 2021)

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# プロゲステロン/プロゲスチン

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# 不育症(RPL)

# 総説、RCT、メタアナリシス

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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