一般不妊

2022.01.25

クロミフェン治療は多胎率が高い?(Fertil Steril. 2022)

はじめに

クロミフェンクエン酸塩(クロミッド®️)は日本でも不妊症治療のために1968年から市販されている薬です。内因性エストロゲンの分泌がある程度保たれている第1度無月経、多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)が適応となり、第2度無月経ではほとんど無効とされています。以前より原因不明の不妊症の卵巣刺激剤としてクロミフェン治療を使うかどうかは議論が分かれています。 安価な薬ですし、比較的合併症も少ないため実臨床でも多用する薬ですが、一番の問題点は多胎の発生率です。ビッグデータをリンケージして評価した論文をご紹介いたします。

ポイント

クロミフェン治療による妊娠は全体の1.6%で、多胎妊娠率は5.7%と自然妊娠の1.5%に比べて約4倍高くなっています。超音波モニタリングで発育卵胞数を把握し、複数育った場合は性交渉を避けることで多胎を予防することが推奨されています。

引用文献

Vivienne Moore, et al. Fertil Steril. 2022. DOI: 10.1016/j.fertnstert.2021.08.030

論文内容

データリンケージにより構築されたコホート研究で、調剤薬剤に関するオーストラリア政府の包括的な記録と妊娠20週以降の出生に関する南オーストラリア州の周産期登録の記録とをリンクしました。 対象は2003年7月から2015年12月の間に妊娠20週以降に出産した女性150,713名、241,561分娩を対象としました。

結果

97.9%の女性について、調剤された処方箋の記録との関連付けをすることができました。クロミフェン治療で妊娠した女性は、高齢で社会経済的に恵まれている傾向があり、他の女性よりも流産既往が多い傾向がありました。クロミフェン治療に関連した妊娠は全体の1.6%(20週以降に妊娠している女性の60名に1名)でした。クロミフェン治療で妊娠した女性の多胎妊娠は5.7%(双胎:94.6%)であり、その他の女性の多胎妊娠は1.5%(双胎:98.5%)でした。

私見

クロミフェン治療を行う際には、やはり超音波でモニターしながら管理することにより発育した卵胞数を把握することができ、複数育った場合は夫婦生活を避けてもらうことで多胎の発生率を避けることが可能だと思います。適切な使用法が求められます。 他にも下記のような副作用がありますが、特徴的な「目のかすみ」は患者様に伝えておく必要があると思います。

 5%以上もしくは 頻度不明 0.1-5% 0.1%未満 
卵巣過剰刺激 下腹部痛などの卵巣腫大症状   
 虚血性視神経症 霧視などの視覚症状  
過敏症 発疹など   
精神神経系 精神変調 頭痛、情動不安  
肝臓 肝機能異常  5%以上のBSP排泄遅延 
消化器  悪心・嘔吐 食欲不振  
その他  顔面潮紅、尿量増加、口渇、疲労感  

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

# 卵巣刺激

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# タイミング指導

WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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