体外受精

2022.03.10

PICSI/通常ICSIのsibling oocytesの培養成績(Andrology. 2021)

はじめに

PICSIにはヒアルロン酸加工が施されたディッシュの上に精子を置き、結合した精子細胞を選ぶディッシュ法と、ヒアルロナンを含む粘性媒体を用いて精子の選択を行うSpermSlow©法の2種類があります。国内で多く流通しているのはSpermSlow©を用いたPICSIです。2つの方法では臨床結果に差がないことが無作為化試験で報告されています(Lodovico Parmegiani, et al. Fertil Steril. 2012)。同じ卵巣刺激の採卵でとれた卵子をPICSIと通常ICSIで分けて受精・胚発生をみたらどうなるでしょうか。2021年の論文をご紹介いたします。

ポイント

同一周期採取卵子でPICSIと通常ICSIを比較した結果、PICSI群で正常受精率と有効胚率が有意に高く、PICSIは受精率と移植可能胚率の改善に寄与する可能性が示されました。

引用文献

Michal Novoselsky Persky, et al. Andrology. 2021. DOI: 10.1111/andr.12982

論文内容

同一周期に採取した卵子(sibling oocytes)で標準的なICSIとPICSI(Physiological selection of spermatozoa for ICSI)の受精と胚発育を比較することを目的としました。2017年1月から2020年4月までの体外受精周期45周期で回収卵子をランダムに分け、257個卵子をPICSI、294個卵子を標準的なICSIを実施し比較検討しました。
今回の45症例は女性年齢中央値29歳(27–34)、男性年齢中央値33歳(30–38)、調整前精液濃度中央値は1,000万個/ml(370-5,000万個/ml)、調整前精液運動率中央値40%(15–50%)、卵巣刺激はロング法、ショート法、アンタゴニスト法を実施し、回収卵子数中央値が12.2個くらいの治療を行っています。今回の症例は2例を除き体外受精不成功患者でした。

結果

正常受精率(71% vs 83%、p=0.008)、有効胚率(38% vs 51%、p=0.01)とPICSI群で高くなりました(それぞれp=0.008、p=0.01)。PICSIはsibling oocytesにおける受精率と移植可能胚率を改善します。

私見

今回の結果は、PICSIが受精率と移植可能胚率につながりましたが、過去の2例の報告とは結論が異なっています。
21周期206個のsibling oocytesの標準的なICSIとPICSI(SpermSlow)の受精と胚発生のタイムラプスパラメータを比較した報告では、PICSIの異常受精率が低い傾向になりましたが、タイムラプスパラメータに差がありませんでした(Liu Y, Feenan K, et al. Human Fertility. 2019)。
18周期219個のsibling oocytesの標準的なICSIとPICSI(SpermSlow)の比較では、受精率・分割率がPICSIの方が低下する傾向がみられましたが、良好胚発生率は変わりませんでした(Choe SA, et al. J Korean Med Sci. 2012)。
PICSIのメリットは流産率の低下です。このような小さい数のstudyでは検証数が足りないのでしょうね。

文責:川井清考(WFC group CEO)

お子さんを望んで妊活をされているご夫婦のためのコラムです。妊娠・タイミング法・人工授精・体外受精・顕微授精などに関して、当院の成績と論文を参考に掲載しています。内容が難しい部分もありますが、どうぞご容赦ください。当コラム内のテキスト、画像、グラフなどの無断転載・無断使用はご遠慮ください。

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WFC group CEO

川井 清考

WFCグループCEO・亀田IVFクリニック幕張院長。生殖医療専門医・不育症認定医。2019年より妊活コラムを通じ、最新の知見とエビデンスに基づく情報を多角的に発信している。

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